"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第9話
夫は得げに胸を張ってみせた。
「ほら、ここ。『黒柱を支え続けた、美しき内助の功』。彩のインタビューを別撮りで30秒だけ入れて、写真も枚追加する。俺をから支えてくれた献な妻として、全社員ので紹介してやるよ。どうだ? これで文句ないだろ」
文字が、私の界にび込んでくる。
『夫のを信じ、庭を守り抜いた糟糠の妻』『成功のにあった、られざる献の物語』
指先が、すうっとたくなっていく。
吐き気がするほどの欺瞞。夫はどこまでっても、私をの自したとして見ていないのだ。自分の成功物語の引きて役、美談の装飾品としてなら、慈く「枠」を与えてやる、と言っているのだ。
「それだけじゃないぞ」
夫はさらに声を弾ませ、決定な「施し」をにした。
「来期の組織改編で、商品企画部にしく『参与』のポストを作るよう、役員会に提案してやる。名目の役職だけどな、に数回顔をすだけで、ちゃんと役員報酬並みの当がるようにしてやるから。これで8のこともチャラだ。おも嬉しいだろ?」
嬉しいだろ?
その言葉が、私の鼓膜を震わせた瞬。私ので、夫に対する最のの欠片が、完全に々に砕け散った。
この男は、何も分かっていない。8に奪ったものが、ポストやで穴埋めできるとっている。
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自分が妻のを施し、コントロールする権利を、今この瞬も握り続けていると信じ切っている。
私はテーブルのの修正案に、指先を添えた。
「直」
「ん? なんだ?」
「この『内助の功』の枠、誰が頼んだの?」
夫の笑顔が、ぴくりと凍りついた。
「え……?」
「私がいつ、あなたのとして紹介してほしいと頼んだかしら」
「彩、お……せっかく俺がをげて枠を作ったのに……!」
「いらないわ」
私は修正指示を、夫の胸元へ滑り込ませた。
「誰かの成功の引きて役になるつもりはないわ。ましてや、あなたの罪滅ぼしのための名誉職なんて、反吐がるほどいらない」
夫の顔が、りと羞恥で真っ赤に染まった。
「お、いい加減にしろよ! 卒の専業主婦が、役員待遇で迎えてやるって言ってるんだぞ! 俺の顔をてるっていう最限の配慮もできないのか!?」
ついに本音がた。取り繕った優しさの皮が剥がれ落ち、傲な素顔が剥きしになる。
私はちがり、徹な線で夫を見ろした。
「の試写会、楽しみにしてるわ」
「……は? なんでおが試写会のことを……」
夫の問いに答えず、私は寝のドアへと向かった。
ドアノブにをかけ、振り返る。
「自分の元を、よく見ておきなさい。あなたが踏み躙ってきたものが、どれだけいか……、いることになるから」
曜の朝、午950分。
本社ビル8階、会議の。
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な防音扉のにったとき、私の呼吸は驚くほど静かにっていた。
首の計を見つめる。役員会と創20周記事業プロジェクトチームによる、記映像の最終試写会まで、あと10分。
私はネイビーのテーラードジャケットの襟元を正し、に持った本革のブリーフケースのみを確かめた。には、今朝法務局で取得してきたばかりの履歴事項全部証、株主名簿記載事項証の写し、そして8の取締役会議事録のコピーが収められている。
ノックを度、く響かせてから、扉を引いた。
円卓を囲んでいた数の線が、斉に私へ突き刺さる。
プロジェクターの微かなファンの音。張り詰めたの空気。最奥の席には、腕を組んで座る奥田社。その数席隣で、プレゼン資料を広げていた夫が、私を見た瞬に凍りついた。
に持っていた級万が、指から滑り落ちて机ので鈍い音をてる。
「……あ、彩……? なんで、おがここに……」
夫の顔から、急速に血の気が引いていくのが見えた。狼狽を隠すようにちがり、で私のもとへ詰め寄ってくる。額には、すでに脂汗が浮いていた。
「庭の用事なら、で待ってろって言っただろ! 今のここは、役員と関係者だけのな試写なんだ。部者が入っていい所じゃない!」
周囲の社員たちが、居悪そうに線を泳がせる。
そので、プロジェクトの責任者である恵さんだけが、私とまっすぐに目をわせ、さく頷いて見せた。