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"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第8話

私は作業のを止め、まっすぐに奥田さんを見た。

「奥田さん。8のこと、覚えていますか」

「8?」

「第をちげたです。私に、の運営統括のポストを用してくださっていたそうですね」

奥田さんの表が、微かに張った。線を落とし、ステンレスの台を指先で軽く叩く。

「……恵から聞いたのか」

「はい」

「あのは、悪かったとっている。本当は、俺が直接おにをげて頼むべきだったんだ。だが直が『彩の体調と庭を最優先にしたい、本のい希望だ』と頑なに主張するから……夫であるあいつがそこまで言うなら、俺が部者として踏み込むべきじゃないと判断してしまった」

奥田さんは悔しそうに眉を寄せた。

「だがになって、おが義父のリハビリと美緒の育児をで背負わされていたとった。……俺の判断ミスだったよ。おのキャリアを、会社が本気で守るべきだった」

「奥田さんのせいではありません。直が、図して報を遮断したんですから」

私は静かに首を振った。

「お願いがあります、奥田さん」

「なんだ?」

「20周の記映像と記誌についてです。直は、私を完全に『しなかった』として編集させていますね」

奥田さんは苦い顔をして頷いた。

「広報の担当役員はあいつだからな。社史編纂の最終決裁権は直にある。

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俺が『彩の名を創業メンバーとして載せるべきだ』とをしたが、直は『内をきく扱うのは社内に示しがつかない』の点張りで突っぱねた」

「内のため、ではありません」

私は胸ポケットから、さく折りたたんだメモを取りした。

「直は、自分の成功神話を作りたいだけです。でも、私は会社の創業株主です。登記簿の資者であり、現役の助言役です。会社の公式な歴史を、役員の個な虚栄で改ざんすることは、コンプライアンスも許されないはずです」

奥田さんの目が、鋭く見かれた。単なる夫婦喧嘩の愚痴ではない。経営の根幹に関わる、正式な申してだと理解したのだ。

「彩さん、お……本気だな」

「ええ。直に恥をかかせたいわけではありません。ただ、奪われた事実を、正しい所に戻したいだけです。奥田さん、記映像の最終試写会は、いつですか」

「……の曜、役員会とプロジェクトチームの同試写がある」

「私も、株主として同席させてください」

奥田さんは腕を組み、しばらくの井を仰いだ。やがて、く息を吐きし、力く頷いた。

「分かった。株主である俺の招集権限で、おをオブザーバーとして正式に席に座らせる」

曜の夜。決戦の夜、夫は珍しく付が変わるに帰宅した。

に提げていたのは、デパートの袋。

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から取りしたのは、級菓子の包みだった。

リビングにいた私に、夫はぎこちない笑みを浮かべてづいてきた。

「彩、これ……美緒とべてくれよ。おが好きだった栗羊羹、買ってきたから」

私は羊羹の包みに線を落とし、何も言わなかった。夫のこのの「罪滅ぼし」は、結婚してから何度も見てきた。ろめたいことがあるほど、価な菓子やプレゼントを買ってくる。それで自分の犯した罪を、チャラにできると信じているのだ。

「彩、あのさ」

夫は私の向かいの席に座り、わざとらしくるい声を絞りした。

「の試写会が終わったら、週末、族で温泉でもかないか? 美緒も連れてさ。伊豆のいい旅館、りいのツテで取れるんだ。最、々ギスギスしてただろ? 俺たち、しリフレッシュが必だとうんだよ」

「美緒は学があるわ」

「でけばいいじゃないか。な?」

夫は必に私の嫌を取ろうと、テーブル越しにを乗りしてくる。その瞳の奥には、恐怖が張りついていた。理恵から何を言われたのか、奥田社から何を釘を刺されたのかはらないが、自分のが元から崩れ始めている気配を、本能に察しているのだ。

「それとさ、これ……見てくれよ」

夫が鞄から取りしたのは、枚の企画修正指示だった。

『創20周記映像・追加構成案』広報担当役員・黒瀬直の承認印が押されている。

「おが気にしてた記映像だけどさ、広報に無理言って、差し込みの枠を作らせたんだ」

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