"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第6話
反論の言葉を探してパクパクとくが、のある音はつもてこない。
私が指摘したすべてが、夫の無識の計算通りだったからだ。「妻のため」という甘いオブラートに包んで、自分の都のいいようにを引きしたのだ。
その、リビングの引き戸が、静かにいた。
「……ママ?」
パジャマ姿の美緒が、廊の暗がりのにっていた。には、昨のインタビューシートと箱を抱えている。
夫が慌てて顔を取り繕い、テーブルののを背に隠した。
「美緒、起きてたのか。……なんでもない、の話だ」
けれど、10歳の子どもの直を侮ることはできない。美緒の線は、青ざめた父親の顔と、氷のようにえ切った私の顔を交互に見つめていた。
美緒の瞳に、みるみる涙が溜まっていく。
「……ママ」
震える声が、リビングに落ちた。
「美緒のせいで……ママ、お仕事諦めたの?」
胸の奥を、たい刃物で抉られたような痛みがった。
「美緒……」
夫がうろたえてちがろうとしたが、私はそれをで制した。
美緒のに膝をつき、抱きしめる。さな体が、微かに震えていた。昨夜からずっと、この子はさな胸ので、答えのない恐怖を抱え込んでいたのだ。
「違うよ、美緒。絶対に違う」
私は美緒の目をまっすぐに見つめ、言言、噛み締めるように伝えた。
「美緒がまれてきてくれたことは、ママので番嬉しかったこと。
広告
ママがにいることを選んだのは、美緒のせいじゃないの」
「でも……さっきパパが、美緒がまだ2歳だったからって……」
「それはね、の問題なの。パパとママが、どうやって族の責任を分けうかという話。美緒が責任をじることなんて、つもないんだよ」
美緒の頬を伝う涙を、親指で拭う。
「ママはね、美緒のお母さんになれて、本当に幸せよ。それは嘘じゃない。ただね……が決めるべきことを、正しく話しえなかっただけ。だから、美緒は何も悪くないの。分かってくれる?」
美緒はをすすりながら、何度もさく頷いた。そして、胸に抱えていたプリントを、私の膝のに差しした。
タイトルの横に、鉛の丸い文字で、しくき直された題名があった。
『ママが作ってきたもの――会社の最初のレシピと、これからの仕事』
「美緒、先に言ったの。パパのインタビューじゃなくて、ママのインタビューにするって」
美緒は涙を拭い、ソファに座る夫を度だけ見つめた。そこには、かつて父親に向けていた無邪気な憧れはなかった。ただ、どこかいものを見るような、えた戸惑いだけがあった。
夫は美緒のその線に耐えきれず、顔を背けた。
そのの午、美緒を学へ送りし、自宅で事のにレシピの直しをしていただった。
スマートフォンの着信音が鳴った。
広告
表示されたのは、義妹の理恵の名。
昨の騒以来、親戚関係のグループLINEは完全に沈黙していた。義母からの抗議の連絡すら途絶えている。
通話ボタンを押すと、理恵の切羽詰まった声がび込んできた。
『あ、彩さん……今、話せる?』
「ええ、丈夫よ」
『あのね、私……どうしても気になって。昨お兄ちゃんが見せたあの写真のあと、インターネットで昔の業界とか、商会議所のアーカイブを片っ端から検索してみたの』
理恵の声には、隠しきれない興奮と揺が混じっていた。
「何を調べたの?」
『会社の創業当の記事よ。法化する直、元の企業支援センターが発してたさなニュースレターのPDFが見つかったの。そこにね……初期の資者と創業者の覧が載ってた』
私は静かに息を吸い込んだ。
「そう」
『彩さん……あなた、会社の株、今どれくらい持ってるの?』
核を突く問いだった。私は元のボールペンを置き、淡々と事実だけを告げた。
「創業当は、奥田さんと直と私の3で現をしったわ。私の取りの貯、ほぼ全額よ。資本に対する私の資比率は、最初25%だった」
話の向こうで、理恵が息を呑む音が聞こえた。
「そのあと、部のエンジェル投資や取引先が入って増資したけれど、私の持ち分は希釈されても残ってる。今の私の保比率は、約18%よ」
『じゅう、はち……?』
理恵の声が裏返った。
『待って、お兄ちゃんは? お兄ちゃんの持ち分はどれくらいなの?』