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"年収2000万円の夫、その創業史に私の名前はなかった" 第4話

淡々と答える私に、恵さんは息を詰まらせた。

『それだけじゃないの、彩さん』

受話器の向こうで、類が擦れう微かな音がした。

『私、見つけちゃったの。8の……第を設したの、取締役会の特例決議案の原本を』

8。 その単語を聞いた瞬、臓がトクンと嫌なね方をした。

8といえば、娘の美緒がまだ2歳でがかかり、ちょうど義父が脳梗塞で倒れただ。 会社は急成の真っ只で、しい品加のちげに追われていた。

営業案件を抱え込んで連夜まで帰れない夫から、ある夜、泣きつかれたのだ。 『彩、頼む。今だけ庭に入ってくれ。父さんのリハビリの付き添いも、母さんじゃ絶対に無理だ。俺が会社で戦えるように、ろを支えてほしい』と。

私は迷った末に、現のリーダーを退き、役員の候補からもりることを承諾した。 誰かが犠牲にならなければ、族も会社も崩壊すると信じていたからだ。 自分が納得して選んだだとっていた。

だが、恵さんのから続いた言葉は、私のその10い「納得」を根底から砕するものだった。

『彩さん、当、奥田社があなたのために特別な支援案をしていたの、ってる?』

「……支援案?」

喉の奥が、からからに乾いていく。

『部の訪問介護とシッターの費用を全額会社が負担して、彩さんには週3の勤務での運営統括責任者に就任してもらうっていう特例措置よ。

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奥田社は、彩さんの商品発力と現掌握力を絶対に放したくないって、役員会でく主張してたの』

すりを掴む私の指先が、くなるほど張った。

そんな話、度も聞いたことがない。

「待って……恵さん。私、そんな提案、奥田さんから直接受けてないわ」

『やっぱり……』

恵さんが、く、いため息を吐きした。

『議事録に、はっきり残ってるのよ。奥田社が提案を提した直、直さんが何て発言して決議をに戻したか』

「直が……何て?」

『――「妻は以から、庭に入り育児と父の介護に専することをく望んでいる。現の責は妻のの負担になるため、本と相談するまでもなく、この支援案は辞退させていただきたい」。そう言って、直さんが自分のサインで、そので握り潰してるの』

ので、何かが音をてて弾けんだ。

目のが真っ暗になり、夜のたさすらじなくなる。

本と相談するまでもなく? 私が庭に入ることをく望んでいた?

違う。 あの夜、夫は私のにをついて頼み込んできたのだ。 『俺のために引いてくれ』と。 会社の制度としても、奥田社の配慮としても、私がキャリアを諦めずに済む選択肢が、最初から用されていたのに。

夫はそれを、私に隠した。 選択肢があることすら教えずに、私に「族のための自己犠牲」

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を選ばせたのだ。

自分が庭の配を切せずに仕事に没し、母親ので誇らしい「の黒柱」として君臨するために。 妻が自分と肩を並べる役員になるを、自らので密かに摘み取って。

『彩さん、丈夫……?』

恵さんの配そうな声が、くから聞こえる。

「……ええ。丈夫よ」

声の震えを、力ずくでねじ伏せる。

「恵さん、その議事録のコピー、元にある?」

『スキャンしたPDFがあるわ。今すぐ彩さんの個のアドレスに送る。……これ、社内でも表汰になったら変なことになるけど、でも、彩さんがらないままなのは、どうしても許せなかったから』

「ありがとう、恵さん。絶対にあなたに迷惑はかけない」

通話を切るとほぼ同に、元の画面がった。 受信通。添付されたPDFファイル。

震える指で画面をタップし、8の記録をく。

黄ばんだ類の画像。 奥田社の直サインの横に、確かに並んでいた。

『第設に伴う運営統括責任者の選任及び就労支援特例に関する付議』

正式な社印の横。審議結果の欄に、った朝体で記された酷な。

『審議結果:取締役・黒瀬直より「本より庭環境を優先したいとの固辞申しあり」との報告を受け、承認見送り』そのには、夫の私印が、かすれもせず鮮に押されていた。

界の端で、リビングのソファに横たわる夫の背が見えた。

無防備に寝息をてる、収2000万円の「成功者」

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