みかん小説
本棚

"孤児の私に、婚約者が買い与えた「偽物の両親」" 第2話

主賓席に施設のおばさんや友達を座らせるなんてあり得ないって、毎話で責められて……」

「だから、役者を雇ったの? 私のを嘘で塗り固めて?」

「嘘じゃない、演だよ!」

旬は歩詰め寄ってきた。 その瞳には、自分の保を正当化するが宿っていた。

「おだって惨めないをしたくないだろ? ちゃんとした両親に祝福されて、普通の庭の娘としてバージンロードを歩きたくないのかよ!」

普通の庭。 惨め。

その言葉が、私の胸に刃のように突き刺さる。 だが、その痛みは瞬で、凍りつくような軽蔑へと変わった。

「私がいつ、自分のいちを惨めだと言った?」

「言わなくても分かるだろ! 俺はおのためにやったんだ! おが式で恥をかかないように、母さんを説得するために、俺が全部配しても払ったんだぞ!」

おのために。 最も卑劣な逃げ台だった。

私は旬の言葉を遮り、ちょうど礼拝堂に入ってきたブライダルキャプテンとプランナーに向き直った。

「プランナーさん」

「は、はい、佐藤様?」

突然の異様な空気に、スタッフがを止める。

「婦側親族のち位置確認およびバージンロードの入リハーサルを、直ちに止してください」

「えっ……? ですが、が――」

「婦本の指示です。現の配内容にな虚偽が含まれています。関連する表、および席次表のマスターデータを直ちに回収してください」

広告

「お、おい美咲! 何勝なこと言ってんだよ!」

旬が私の腕を掴もうとした。 私はそのを鋭く振り払った。

「触らないで」

く言い放つと、旬は弾かれたようにを止めた。 プランナーは顔を変え、インカムで止の連絡を入れ始めた。

私はファイルを抱えたまま、礼拝堂の通を歩きした。 踵を鳴らしての廊へる。

「あの、美咲様」

背から控えめな声がした。 振り返ると、先ほどの留袖の女性――子と名乗った役者が、廊のから追ってきていた。

にはさな袋と、枚のインスタント写真が握られていた。

「勝を言って申し訳ありません。業務、ち入ったことを申しげるではないのですが……」

子はくをげた。

「私たちは、郎様から『婦ものサプライズ演を含んだ親族代』として依頼を受けておりました。まさか、美咲様ご本が何もごじなかったとはらず……本当に申し訳ございませんでした」

淡々とした、しかしプロとしての誠実な謝罪だった。

「いいえ。あなたがたの責任ではありません。依頼主が誰か、よく分かりましたから」

私が背を向けようとした、子がそっとを伸ばした。 私の歪んだベールに指先が触れる。

ふわりと、髪の乱れが直された。

「とても綺麗よ」

子は微笑んでいた。 営業用の作り笑いではない、湿り気のある温かい差しだった。

広告

「お世辞でも、仕事の台でもありません。お世辞抜きで、本当に凛として美しい嫁さんです」

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

。 母ので髪をえられ、綺麗だと言われた記憶は、褪せた写真の向こうにしかない。

偽物の母親からかけられた、本物の言葉。 それがどれほど残酷で、どれほど虚しいか。

私は涙がこぼれそうになるのを奥歯を噛んで押し留め、さく会釈をして背を向けた。

プランナーのデスクへ向かう。 預かりのバインダーに挟まれていた席次表の最ゲラ刷りを引き抜いた。

目線をらせる。

婦主賓席。 そこにあるはずだった名を探す。

私が歳まで過ごした養護施設で、母代わりのように私を抱きしめ、育ててくれた元職員、松浦文恵先。

その名のに、太い赤ペンで線が引かれていた。

控のいドアを内側からロックした。

化粧台のいテーブルのに、先ほどプランナーから奪い取った席次表の正を叩きつけるように広げる。

赤字で修正された箇所を、本ずつ指でなぞった。

主賓席の最列から消された、松浦文恵先の名。 その名は、会の最も隅、スタッフの配膳に隣接した末席のテーブルへと追いやられていた。 肩きは『婦恩師』から、ただの『婦』へと格げされている。

そして、もうつの異変。

同じ施設で育ち、を卒業して社会にるまで、苦楽を共にしてきた幼馴染の莉奈。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: