"孤児の私に、婚約者が買い与えた「偽物の両親」" 第1話
式のい樫の扉を押しけた瞬、界にび込んできたのは、見らぬの背だった。
バージンロードの最列。 婦側の親族席。
そこに、仕てのいいモーニングコートを着た初老の男性と、格式いつ紋の黒留袖を纏った代半ばの女性が並んで腰掛けていた。
……誰?
リハーサルの始予定刻までは、まだ分ある。 装わせの確認をめに済ませた私は、担当プランナーを探して礼拝堂に入っただけだった。
音に気づいたのか、が同に振り返る。 女性は私の姿を見るなり、丁寧に両をでね、完璧な角度でお辞儀をした。
「美咲様ですね。初めまして」
落ち着いた、障りのいい声だった。
「本のリハーサルから最終本番まで、お母様役を務めさせていただきます、佐々と申します」
……は? 今、このは何と言った?
の芯が急激にえていく。 私は返事もできず、喉の奥がからからに渇くのをじていた。
男性の方も穏やかな笑みを浮かべ、膝のに置いていた黒い革のブリーフケースから、冊のいクリアファイルを差ししてきた。
表には、見慣れた朝体で印字されていた。
『婦・佐藤美咲様 プロフィール共資料(最終稿)』
「神様から事にお預かりしている設定資料です。幼期の記憶、親族関係の概、郎様との馴れ初めまで、すべてに入っておりますのでごください」
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男は事も無げに言った。 まるで、台のち稽古に共演者へ台本を渡すかのような慣れた所作だった。
私は震える指先で、そのファイルをひったくるように受け取った。
ページ目をく。
『佐藤美咲(34) 京都。幼期より会社役員の叔父夫婦に引き取られ、厳格かつ温かな庭環境にて養育される。 学卒業、品メーカーの事教育部に勤務――』
活字が、界ので歪む。
歳の、両親が乗った軽自が型トラックに巻き込まれたこと。 引き取りのない私が、歳のまで県の児童養護施設で暮らしたこと。
そのすべてが、のから跡形もなく消えっていた。
「……これ、誰が作ったんですか」
声がかすれた。 りよりも先に、指先の覚が失われていくような悪寒がる。
「郎の旬様です」
女役のが、すまなそうに首を傾げた。
「ご婦様は幼期にご苦労されており、お相のご庭が格式をんじる柄のため、余計な詮索を避けて幸せな式にしたいのだと伺っております。私たち『ファミリー・パートナーズ』は、これまでもくの結婚式で親族代を務めてまいりましたので――」
代理席。 親族代。
ので単語が繋がった瞬、全の血が逆流した。
私はスマホを取りすと、目ので微笑むを無し、そのファイルの全ページを無言で撮し始めた。
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ブレしないよう、脇を締め、ページをめくる。
いちの改ざん。 両親の因の隠蔽。 架空の親族体系図。
枚、また枚と、私のがので塗りつぶされていく証拠を画面に収める。
「美咲!」
礼拝堂の扉が勢いよくき、息を切らした旬が駆け込んできた。 ネクタイがし曲がっている。 私の元にあるファイルと、困惑した顔でつの役者を見た瞬、あのの顔から血の気が引いた。
「……あ」
唇をさくいたまま、旬はそのにち尽くした。
「旬。これ、何?」
私はカメラを起したままのスマホを構え、旬の青ざめた顔を正面から見据えた。
「美咲、落ち着いてくれ。ここはスタッフも入りするから、度控へ――」
「答えなさいよ。このたちは誰?」
声を荒らげることはしなかった。 ここで取り乱せば、な女として処理される。 私は息を吸い込み、徹に言葉を刻んだ。
「私の母は、のにんだ。私の父も同じにんだ。ここにいるは、体どこの誰なの」
旬は線を激しく泳がせ、役者のに「し席をしてください」とを振った。 は慣れた様子でをげ、音を忍ばせて礼拝堂をていく。
い扉が閉まり、静寂が落ちる。
「……母さんが、どうしても納得しなかったんだ」
旬は絞りすように言った。
「両親がいない婦なんて、親戚に示しがつかないって。