"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第15話
励ましの言葉、受験の応援、そして母を貶める無数の毒。
美咲は迷うことなく、指先をかした。
『トーク履歴をすべて削除しますか?』
画面に表示された確認ダイアログ。美咲の指先は、ミリも震えていなかった。
タップ。
分の欺瞞の記録が、青いのに吸い込まれ、瞬で消えった。続けて、連絡先のブロックと削除。
画面には、何つ残らなかった。
美咲はスマートフォンを伏せ、顔をげた。その瞳には、もはや片の涙もなかった。そこにあったのは、母親の痛みを真に理解し、自らので呪縛を断ち切った、のの女性の顔だった。
「……お母さん」
美咲が、私のをそっと握った。
「今まで、ごめんなさい」
「美咲……」
「お母さんが、どれだけ苦しんできたか、何もろうとしないで……『おばあちゃんがだから』なんて、っぺらい正義でお母さんを傷つけて……本当にごめんなさい」
娘の温かいのひらの触が、私の皮膚を通じて胸の奥へと染み渡っていく。私の目から、い涙がこぼれ落ちた。
それは、恐怖の涙ではなかった。悔しさの涙でもなかった。、誰にも触れられることのなかった私の痛みが、最も守りたかった娘のによって、優しく解き放たれた瞬の涙だった。
「いいのよ、美咲」
私は娘のを、く握り返した。
「あなたが、私を信じることを選んでくれた。
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それだけで、私のは救われたの」
健が、の背にそっとを添えた。夕暮れの柔らかなが、私たちを静かに包み込んでいた。
数ヶのが流れた。
厳しいが過ぎり、埼玉のには柔らかなの陽がり注いでいた。の桜の蕾が、淡いピンクに膨らみ始めている。
の裁判所から届いた通によれば、兄・孝志には懲役、義姉・真由美には懲役ヶの実刑判決がされ、控訴することなく刑が確定したという。れの公施設に入った母は、面会に来る者も誰おらず、認症の症状がむで、静かに余を送っていると報告にあった。
因果応報の歯は、完全に回り切った。悪を撒き散らした者たちには、徹な孤独と自業自得の結末だけが残された。
そして、私の元には、つの封筒があった。
あの、まみれのダンボール箱の底から見つかった、ハサミでズタズタに切り刻まれていた万円。さんがに掛けい、本の鑑定を経て、札の帯封が巻かれた真しい幣となって戻ってきたおだった。
夫が、私の尊厳を守るために用してくれた、真の結晶。
「志保、そのお、どう使うか決めたのか?」
休の朝、コーヒーを淹れ終えた健が、ダイニングテーブル越しに尋ねてきた。
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私は微笑み、バッグのから枚のプラスチックカードを取りして、テーブルのに滑らせた。
そこには、初者マークの横で、し緊張した面持ちでを見つめる私の顔写真があった。
公認自教習所を卒業し、先週、免許センターで交付を受けたばかりの、真しい運転免許証だった。
「の運転免許を取ったの」
健が目を丸くした。
「免許を? あの万でか?」
「ええ。教習所の費用に、ぴったり使わせていただいたわ」
私は自分ののひらを見つめた。
「ずっとね、どこへくにも誰かに頼って、自分ではどこへも逃げられないとい込んできてきたの。でも、これからは違う。自分のきたい所へは、自分ので、自分のでハンドルを握ってけるようになりたかった」
誰かの顔を窺い、誰かの許を求め、罪悪に背を丸めていたかつての志保は、もうどこにもいなかった。自分のでち、自分ののき先を自分で決める、自したのがここにいた。
「最だな」
健が、の底から嬉しそうに笑った。
「じゃあ、記すべき最初のドライブに、連れてってもらおうかな」
「もちろんよ。助席は健さんの特等席だから」
リビングのドアがき、支度をえた美咲が入ってきた。
「お父さん、お母さん、準備できたよ!」
美咲はにしたさなトートバッグから、現像したばかりの写真を枚取りし、私に渡した。
「これ、先週みんなで所の公園を散歩したのやつ。