"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第14話
そのだった。
テーブルのに置かれた私のスマートフォンが、く震えた。画面に表示されたのは、元の域包括支援センターの担当職員の番号だった。
「はい、です」
『志保様でしょうか。包括支援センターの佐藤です。先ほど、お母様の澄様の入所面談を終えたのですが……』
職員の困惑した声の向こうから、激しい鳴り声と泣き叫ぶ声が漏れ聞こえていた。
『お母様がどうしても、娘と直接話をさせろと暴れておられまして……度だけ、お話を代わってもよろしいでしょうか。これで最にすると仰っておりますので』
私は隣に座る美咲を見た。美咲は静かに頷いた。
「わかりました。スピーカーにしてください」
ガサゴソと受話器が擦れる音が響き、次の瞬、を刺すような母の絶叫が部に反響した。
『志保! 志保、そこにいるんだろう!』
掠れ、ひび割れ、狂気を帯びた声。
『を追いされるってどういうことだい! 私が何をしたって言うんだい! 孝志を刑務所に入れて、真由美さんを追いして、今度は私を姥捨てに放り込む気かい!』
母の言葉の端々に、唾を吐き散らすような憎悪が滲んでいた。
『おが仕送りを止めたら、私はどうやってきていけばいいんだい……! 所のたちに何て言えばいいんだい! 親を施設送りにした者だって、親戚に笑われるのはおなんだよ!』
広告
母の声は、りから転して、今にも崩れ落ちそうなれっぽい泣き声へと変わっていた。
に私を縛り付け、そして美咲を絡め取ってきた、あの慣れた「な母親」の旋律。
『志保……お父さんが葉ので泣いているよ。あんなに苦労しておを育てたのに、こんな仕打ちをするなんて……。美咲ちゃんだって、見ているんだよ。親を平気で見捨てるような母親のろ姿を、あの子がどんな気持ちで見ているか、おには分からないのかい』
最の瞬まで、の罪悪の隙に毒針を突きてようとする執。
だが、その毒はもう、私の皮膚をわずかも貫くことはできなかった。
美咲が、私の首にそっと触れた。
その指先には、もう祖母への恐怖も、同の揺らぎも微もなかった。
「お母さん」
私の声は、の枯れ野のように静まり返っていた。
「、私はあなたのために准護学を諦めました。でも、あなたは私を棒と呼び、から追いした」
『それは……あのは孝志を守るために仕方が――』
「、あなたは美咲にづき、優しい祖母のふりをして、私に対する悪を植え付け続けた。美咲の善を利用して、私をおびき寄せるために」
話の向こうで、母のすすり泣きがピタリと止まった。
「あなたは美咲をしていたんじゃない。
広告
私からおとを奪い、兄さんの借を埋めるための駒として、孫を利用しただけです」
『志保……お、母親に向かって、よくもそんなを……』
掠れた母の声から、れみの仮面が剥がれ落ち、酷な本性が顔を覗かせる。
「毎送っていた万円は、親孝ではありませんでした。実から逃げした自分を責めるのをやめるための、免罪符でした。でも、もうそのおも払いません」
私は美咲のまっすぐな瞳を見つめながら、はっきりと告げた。
「お母さん。私は今、あなたの娘をやめます」
受話器の向こうから、息を呑む微かな音がした。
「もう度と、私や美咲のに現れないでください。あなたの選んできたの結末は、あなた自で引き受けてください」
『志保! 待ちなさい、志保! あんただっての親だろうが! 美咲ちゃん、美咲ちゃん聞いてるんだろう、おばあちゃんを助けて――』
私はスピーカーの赤いボタンを、静かにタップした。
それだけでは終わらせなかった。私はスマートフォンの設定画面をき、実の番号を着信拒否に設定した。度と、この話があの毒を運んでくることはない。
リビングに、しんとした静けさが戻ってきた。美咲が、テーブルのの自分のスマートフォンをに取った。
「美咲……?」
美咲は何も言わず、画面を操作し始めた。メッセージアプリをき、続いていた『おばあちゃん』とのトークルームを表示させる。
そこには、何千通ものやり取りが残されていた。