みかん小説
本棚

"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第12話

ゴホゴホと胸を叩く音が響いた、使い古されたが受話器から滑りしてくる。

『あの子はの跡取りなんだよ! おみたいな嫁にった来損ないが、実のにを挟むのが筋違いなんだ! ……ああ、胸が苦しい。臓が止まりそうだ。志保、親を殺す気かい。おがそんな親孝な鬼だから、父親にも見放されたんだよ!』

美咲が、さく息を呑んだ。母の言葉の端々に散りばめられた、罪悪を煽るための毒。、美咲を縛り続けてきたものと、寸分違わぬやり。

私は美咲のを握った。娘の指先はたかったが、もう怯えてはいなかった。

「お母さん」

私は静かに言った。

「その芝居、もう誰にも通用しませんよ」

通話の向こうで、母の呼吸がぴたりと止まった。

「、兄さんが学を退して作った借を、私のせいにしてに言いふらした。准護学の推薦を潰し、私の料を奪い続けた。そして今回は、美咲を騙して私の居所を探らせ、暴力を振るって遺産を奪おうとした」

『な……っ、何を……』

「さんから、父の公正証遺言を見せてもらいました」

受話器の向こうから、息を呑む微かな音が聞こえた。

「父は、あなたたちの欲を見抜いていた。だから、をすべて私に遺したんです。あなたたちが私に押し付けようとした借も、棒の汚名も、最初からしなかった」

広告

沈黙が落ちた。数秒の、母のから漏れたのは、謝罪でも反省でもなかった。ガラガラに掠れた、呪いのようない声だった。

『……毎の仕送りはどうするんだい』

背筋を、たいが通り抜けた。男が逮捕され、嘘がすべて暴かれてもなお、こののにあるのはのことだけだった。

『毎万円、振り込んでいた仕送りだよ。あれがなきゃ、私はどうやって暮らせばいいんだい。親をに迷わせる気かい。世が許さないよ。所の笑い者にしてやるからね!』

「その仕送りも、今で完全に止めます」

『……は?』

「へって、自送の続きを解約してきます。度と、あなたに円も渡しません」

『志保! 待ちなさい! 志保――!』

私は指先をかし、通話を切った。障りな絶叫が途切れ、リビングに透き通るような静寂が戻ってきた。

私はスマートフォンをテーブルに置き、く息を吐きした。両肩から、分の鉛のが、音をてて滑り落ちていく覚があった。

曜の午。私は駅の方の窓にいた。

元には、印鑑と通帳。そして、度もを触れることのなかった、定期自送の契約控えがあった。

「様、こちらの毎指定の送座、解約でよろしいですね?」

窓の員が、淡々とした事務な声で確認してくる。

広告

私にとってはき血を絞り取られるようなの呪縛だった切れが、にとってはただの枚の帳票に過ぎない。

「はい。解約してください」

私は迷いなく、備え付けの朱肉に実印を押し、解約届の指定欄に力を込めて捺印した。いのに、鮮やかな赤い印が浮かびがる。

『澄様宛 自送止完』

続きを終えた受領証を渡された瞬、胸の奥で何かが静かに千切れた。

毎万円。で、百万円を超える。

それは親孝などではなかった。「私は親を捨てた極悪ではない」と、自分自に言い聞かせるために支払い続けていた、免罪符の代に過ぎなかったのだ。その取引を、私自ので完全に終わらせた。

をた、私たちは相馬弁護士のオフィスへと向かった。待には、すでにから駆けつけたさんが待っていた。膝のには、厳に呂敷で包まれた漆塗りの箱が置かれている。

「志保ちゃん、役の連と話をつけたぞ」

さんが、疲労のを滲ませながらも力い声で言った。

「志のやつが過数にわたって正受していた森林管理の補助、総額で千百万円にのぼる。役の共犯職員もすでに懲戒免職の続きに入った。当然、このは全額、に返還請求がいく」

「兄の財産で、払えるのでしょうか」

私の問いに、相馬弁護士が首を横に振った。

「無理ですね。志容疑者には裏カジノとからの借が数千万円あります。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: