"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第8話
「ありがとうございます、さん」
私はくをげ、受話器を置いた。
リビングに、苦しい沈黙がりる。 だが、その沈黙は数のような絶望のを帯びてはいなかった。
健が、私の肩に力くを置いた。
「戦うんだな、志保」
「ええ」
私は美咲を見た。 娘は、自分のスマートフォンをじっと見つめていた。 その瞳には、もはや迷いも、祖母への同も残っていなかった。
「お母さん」
美咲が、静かに顔をげた。
「私を、使って」
「美咲……?」
「おばあちゃんは、まだ私が自分の方だとってる。私がに入れば、あのたちの油断を誘えるはず」
歳の娘が、自らのでちがろうとしていた。 母親の背に隠れるのではなく、共に戦うために。
その、テーブルのの私のスマートフォンが、けたたましいバイブレーションを響かせた。
見らぬ番号からのショートメッセージ。 くと、兄・孝志からの最通告だった。
『曜の朝。町のリゾート発会社本社ビル、階のロビーに来い。現百万と実印、包括委任状を持参しろ。来なければ、おの娘の学に、親族総で乗り込んでやるから覚悟しとけ』
画面を凝する私の横で、健がややかに呟いた。
「曜の期限を待たずに、曜の朝か。よほどに困って焦っているらしいな」
「ええ」
私は返信画面をき、く言だけ打ち込んだ。
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『わかりました。曜の朝、伺います』
送信ボタンを押す私の指先は、微も揺れていなかった。
罠を仕掛けているつもりでいる悪たちを、法と真実という名の絶対の檻へと叩き落とすための台が、いまいつつあった。
決戦夜、曜の午。都内の雑居ビルにある相馬弁護士の事務所は、類のインクと濃い珈琲の匂いに包まれていた。
窓のでは、京の夜景が無質なを放っている。テーブルのには、付けの通話録音と、弁護士が用した分い証拠類の束が然と並べられていた。
同席した健が、私のえ切った指先に自分のをねる。美咲は唇を文字に結び、テーブルののスマートフォンをじっと見つめていた。
その静寂を切り裂くように、子音がく鳴り響いた。
画面に浮かびがったのは、見慣れた文字。『おばあちゃん』
美咲の呼吸が浅くなり、喉仏がさくした。相馬弁護士が無言で頷き、録音器のスイッチを指先で押し込む。赤いランプが静かに点灯した。
「美咲ちゃん、落ち着いて。言われた通りにね」
弁護士のい囁きに、美咲はさく頷いた。呼吸をつ落とし、震える指先でスピーカー通話のアイコンをスワイプする。
『もしもし、美咲ちゃん?』
スピーカーから響きたのは、が痛くなるほど甘ったるい、しかし芯のえ切った老女の声だった。
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私の実母、澄。
『よかった、やっと繋がった。おばあちゃん、配で配で、臓が止まりそうだったのよ』
美咲は私の顔を度だけ見つめ、努めて平静な声を返した。
「……おばあちゃん、どうしたの?」
『のことよ。お母さん、ちゃんと京の本社にく気になったかい?』
受話器の向こうから、擦れの音と、かすかな息の乱れが漏れ聞こえてくる。
『美咲ちゃん、お母さんをしっかり説得してくれたかい? 実印と包括委任状を持たせて、のに発会社へくようにって』
「お母さん、まだ迷ってるよ」
美咲の声は、打ちわせ通りにわずかな戸惑いを帯びていた。
「だって、あのは元々おじいちゃんのでしょう? どうしてお母さんの実印がいるの?」
話の向こうで、母の呼吸がわずかに止まった。そして、猫撫で声のに、じわりと焦りのが滲みす。
『美咲ちゃんには難しいかもしれないけれどね。あれは男である孝志おじさんが継ぐのが、の決まりなんだよ。お母さんは昔、のおを盗んで逃げたんだから、に指本触れる権利なんてないの』
「でも……」
美咲が言葉を継いだ。その声には、確かなさが宿り始めていた。
「お母さんから、当の話を聞いたよ。料の細も、の推薦の記録も残ってた」
静寂。通話の奥で、カチリと母の奥歯が鳴るような気配がした。
「お母さんは、おなんて盗んでない。で働いたお料を、全部仕送りしてたって。