"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第5話
黄ばんだ報の控え。 、着の着のままで京へ逃げる私に、駅のホームでそっと握らせてくれた、品の先輩・佐久律子さんの連絡先だった。
『志保ちゃん、困ったらいつでも話しなさい。のみんな、あなたがどれだけ頑張ってたか、全部ってるからね』
掠れたボールペンの文字を見つめながら、私はスマートフォンの画面を伏せた。
その瞬、美咲のスマートフォンがく震えた。
画面を覗き込むと、そこには母からの、吐き気を催すようなしいメッセージが表示されていた。
『美咲ちゃん、お母さんはまた嘘をついているでしょう? おばあちゃんを助けて。あのたち、おばあちゃんを殺す気よ』
美咲はもう、そのメッセージに返信しようとはしなかった。
翌朝、救急来の待の空気は、消毒液のたい臭いに満ちていた。
医師のが、私の首筋に触れる。 指先から伝わるたさに、わず息を呑んだ。
「い力で圧迫された痕ですね。全治週の頸部挫傷と打撲。警察提用の診断、作成しておきます」
机のに置かれた枚のい。 そこには、私が実で受けた暴力の事実が、覆しようのない医学な所見として記されていた。 警察署での事相談を終え、事聴取の記録を残してもらった、私と美咲は千葉へと向かうに揺られていた。
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のには、あの黄ばんだ報の控え。 、私を京へ逃がしてくれたの先輩、佐久律子さんの所がかれている。
話で事を話すと、律子さんは絶句し、すぐに来なさいと言ってくれた。
千葉の静かな宅。 呼び鈴を鳴らすと、髪混じりの柄な女性がドアをけた。 私の顔を見るなり、律子さんの目が赤く潤む。
「……志保ちゃん。本当によく、きて戻ってきたわね」
通された居のテーブルには、温かいお茶と、数の古いアルバムが広げられていた。 美咲は緊張した面持ちで、私の隣に背筋を伸ばして座っている。
「律子さん。あの頃のこと、教えてほしいんです」
私の言葉に、律子さんはく息を吐きし、美咲の顔を見つめた。
「美咲ちゃん。あなたのおばあちゃんが、志保ちゃんがおを盗んで逃げたって言ってるの?」
「……はい」
「とんでもない」
律子さんの調が、りでくなった。
「志保ちゃんはね、毎料になると、自分のためのおなんて円も使わずに実に帰ってたのよ。お昼の仕し弁当代すら惜しんで、から持ってきた塩むすびつで残業までこなしてた。そんな子が、のおを盗むわけがないでしょう」
律子さんはちがり、奥の部から冊の古びたバインダーを持ってきた。 当のの社内報や、研修の記録だった。
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「これを見て」
広げられたページには、『准護師養成講習 推薦者名簿』の文字があった。 そこには、歳の私の名がはっきりと印刷されていた。
「が費用を部負担して、働きながら資格を取らせてくれる特別な制度だったの。も、志保ちゃんの真面目さを買って、真っ先に名を推薦してくれた」
臓が、激しく脈打つ。
らなかった。 そんな話、、度も聞いたことがなかった。
「私……ただ選考に落ちたんだとばかり……」
「違うわよ、志保ちゃん」
律子さんの目が、痛ましそうに私を射抜いた。
「推薦が決まった翌週、あなたのお母さんがに乗り込んできたのよ。『娘にそんな資格を取らせたら京へ逃げてしまう』『で兄の面倒を見させなきゃ困る』って、に座り込んで泣き喚いて……」
喉の奥が、からからに渇いていく。
「も困り果ててね。庭の事にこれ以は踏み込めないって、推薦を取り消さざるを得なかったの。志保ちゃんには、余計な傷をつけないようにって、理由を伏せて格だと伝えたのよ」
目のが、真っ暗になった。
私は、能力がりなくて落とされたのではなかった。 あのが。 実の母親が、私の未来の芽を、自らので摘み取っていたのだ。
隣で聞いていた美咲が、息を呑む音が聞こえた。 娘の震えるが、私の膝のになる。
「……お母さん、ずっと、護師になりたかったって言ってたよね」
「ええ」
声が、掠れてなかった。