"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第3話
父親がくにくなったで、母にとって兄は『族の象徴』であり、絶対に傷つけてはならない聖域だった。
「だから、私のせいにしたの。『志保がの貯を盗んで遊び歩いたせいで、孝志の学費が払えなくなった』って、親戚や所に言いふらした。私がいくら違うと叫んでも、誰も信じなかった。母さんが泣き真似をして、『あの子は親を親ともわない鬼子だ』って言い続けたから」
美咲が、息を呑む音が聞こえた。 だが、その瞳にはまだ、完全な納得のは灯っていない。
残酷なまでの現実。 歳の娘にとって、の約束や庭内の来事は、あまりにく、実体がないのだ。
「……証拠は?」
美咲が震える声で言った。
「その料を渡してたっていう、証拠はあるの? 受領証とか、の記録とか……」
臓に、たい氷柱を突き刺されたような痛みがった。
「美咲、おな!」
健がちがりかけた。 私はそれを、片で制した。
責めることはできない。 私自が、何も証拠を残さずに逃げしたのだから。 内を疑い、領収を取るなどという恵は、当の歳の私にはなかった。
「ないわよ」
私は美咲の目をまっすぐに見つめ返した。
「歳の私は、族にそんなものを求める発すら持てなかった。ただ、骨までしゃぶられて殺されるに、逃げるしかなかったの」
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そのだった。
ジリリリリリリッ!
静まり返ったリビングに、固定話のけたたましい呼びし音が鳴り響いた。 夜の半を回っている。
ディスプレイに浮かびがった局番。 の、あの忌まわしいの番号だった。
私の全の筋肉が直し、呼吸が止まる。
「……なくていい」
健が話に向かおうとした。
「待って」
私はちがった。 の震えを必に抑え込み、話へと歩み寄る。
「スピーカーにして」
振り返ると、美咲が青ざめた顔で私を見ていた。
「美咲……?」
「おばあちゃんたちの本当の声を、聞かせて」
私は震える指先で、スピーカーボタンを押した。
『もしもし、ですが』
名乗った瞬、受話器の奥から響いてきたのは、ドスの利いた鳴り声だった。
『おう志保! やっとやがったなこの棒猫が!』
兄・孝志の声だった。 酒の匂いが話線を通じて漂ってきそうなほど、荒く濁った響き。
『随分といいご分だなあ!? 払いらって逃げ帰りやがって! こっちはなあ、幹線代使ってまで京に取りてにく準備してんだぞ!』
続いて割り込んできたのは、属を擦りわせるような甲い女の声。 義姉の真由美だった。
『ちょっと志保さん、聞こえてんでしょ! あんなゴミみたいな産と、たった万の切れで親の面倒をチャラにできるとってんじゃないわよ! こっちはもお義母さんのの世話まで背負わされてんの!』
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美咲が、目を見いたまま凍りついている。 画面の向こうで『優しい親戚』を装っていたたちの、これが本物の素顔だった。
「夜分に何の用ですか」
私は努めて平坦な声を絞りした。
『用だと!? ふざけんな! 曜の朝までに百万円用しろ! それとの包括委任状に実印押して送り返せ!』
孝志の声がリビングに反響する。
『断るならな、おの旦の会社だけじゃねえぞ。埼玉のあの娘……美咲だっけか? 通ってる学の掲示板にも、おの実名入りでチラシばらまいてやるからな! 「母親が親の遺産を横領した極悪棒」ってな!』
「やめなさい!」
私が叫ぶよりく、スピーカーの奥から、乾いた咳払いが聞こえた。
瞬で、孝志と真由美の声が止まる。 そして、受話器の向こうから、ひどく掠れた、しかし酷な計算に満ちた老女の声が滑り込んできた。
『志保かい』
母の声だった。
『……お母さん』
『美咲ちゃんにね、恥をかかせたくないでしょう。あの子は素直で、本当にいい子だよ。おみたいなお来損ないからまれたとはえないくらいにね』
母はゆっくりと、言言を噛み締めるように言った。
『おが昔、うちのを盗んだのは事実なんだから。親の顔にを塗った落としを、百万でつけなさい。美咲ちゃんの未来を守りたいならね』
カチャリ、と方に通話が切れた。
ツコツコという無質な子音だけが、静まり返った部に響き渡った。