"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第2話
美咲が顔をげた。 赤くなった両目が、私を真正面から射抜く。
「の休み、私、でにった」
臓が、ねがった。
「おばあちゃんに、会いにったの」
全の血液が逆流するような戦慄が背筋を駆け抜けた。 私のらないところで。 私が最も恐れ、最もざけたかった所に、私の娘がを踏み入れていた。
「なんで……なんで言わなかったの!」
わず声を荒らげた私に、美咲は泣き叫ぶように言い返した。
「言えるわけないじゃない! お母さんがも、何つ話してくれなかったからでしょ!」
胸に鋭い刃物を突きてられたような衝撃だった。 反論の言葉が喉の奥で詰まり、片もてこない。
美咲は震えるで画面を操作し、枚の写真を突きつけてきた。
「これ、おばあちゃんから送られてきたの。お母さんが実をる直に」
画面に表示されたのは、茶く変した古い学ノートの写真だった。 表には母の几帳面で角張った文字で『計覚』とある。
そして、婆から美咲へ送られた最のメッセージが、酷にっていた。
『お母さんが急に帰省する気になったのはね、美咲ちゃん。のあの借のことが、もう誤魔化せなくなったからよ』
リビングの空気は、真の底のように凍りついていた。
濡れた着を脱ぎ、タオルで髪を拭いても、体の芯の寒気は向に引かない。
広告
テーブルの向かい側には美咲が座り、横には健が険しい顔で腕を組んでいた。
テーブルの央に置かれた美咲のスマートフォン。 そこに写しされた古いノートのページを、私はい入るように見つめた。
掠れた赤ペンの文字。 『志保 150,000』 『志保 80,000』 『志保 220,000』
付は、私が実をるの。 計額の欄には、乱暴に線が引かれ、その横に母の文字で『未清算』とき殴られていた。
「おばあちゃんは言ってた」
美咲が、テーブルの目を睨みつけながら言った。
「お母さんが、実の貯を何度も勝に引きして、自分の京きのために隠してたって。孝志おじさんが学を退したのは、そのせいで学費が払えなくなったからだって」
「美咲、おはそれを本気で信じているのか」
健の静かな問いに、美咲は唇を噛んだ。
「信じたくなかったよ! でも……このノートには、確かにお母さんの名がいてある。額もこんなに細かく……」
「これは、借の記録じゃない」
私のからた声は、自分でも驚くほどく、乾いていた。
美咲が弾かれたように顔をげる。
「え……?」
「母さんの字よ。経っても、見違えるはずがない。でもね、美咲。これは私が借りたおじゃない」
喉の奥が張り付き、息を吸い込むたびに胸の奥が痛んだ。 封じ込めてきた過の記憶が、濁流のように押し寄せてくる。
広告
「私が、毎で働いて、母さんに渡ししていた料の額よ」
美咲の眉がピクリといた。
「をてすぐ、元の品加に就職した。取りで、万。残業がいは万くらい。その袋のまま、私は毎、母さんに全額渡していたの。そこから私の遣いとして千円だけ戻されて……残りは全部、の活費と、仙台の私学にっていた兄さんの仕送りに消えていた」
「でも……おばあちゃんは、お母さんがのおを持ち逃げしたって……」
「逆よ」
乾いた笑いが漏れそうになった。
「持ち逃げされたのは、私ののほう」
私はテーブルので、自分の爪がのひらにい込むほど拳を握りしめた。
「の、護学の推薦枠をもらったの。学費の半が免除される特待枠だった。担任の先も、これなら学できるってんでくれて……でも、母さんに願を見せた夜、そのは目ので破り捨てられた」
『女が気に学なんかしてどうするの。孝志が京の学をてを継ぐんだから、おはさっさと働いて兄さんを支えなさい』
母のたい目が、経った今でも鮮に蘇る。
「兄さんは、学になんかってなかった。麻雀とパチンコに溺れて、のにはとっくに退学処分になっていたのよ。母さんは親戚に『自の男』として吹聴していた、本当のことが言えなかった」
の世体。 男絶対の古い掟。