みかん小説
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"23年逃げた母が、娘のスマホの中にいた" 第1話

たいのが、コートの裾をたく濡らしていた。

埼玉の自宅ドアをけた瞬、玄関のかりが網膜を刺した。 まみれの汚れたダンボール箱を、私は両腕で抱え直す。

ガムテープで幾にもぐるぐる巻きにされた、たい塊。 そこから漂う湿ったカビの臭いが、肺の奥まで侵してくるようだった。

「……志保? どうしたんだ、その格好」

廊の奥から駆け寄ってきた夫・健の顔が、恐怖に歪む。

泊の予定だった。 ぶりに帰ったの実から、私は予定を丸切りげ、逃げるように戻ってきた。

「健さん、ごめんなさい。私……」

声が震えて、奥歯がガチガチと音をてる。 靴を脱ぐ力すら残っていなかった。 り框に膝をついた瞬、抱えていたダンボール箱がドサリとに落ちた。

「とにかく入れ。体が氷みたいじゃないか。体、何があったんだ」

健が慌てて私の肩にを伸ばす。 そのが襟元に触れそうになった瞬、私の体は無識に、殴られるのを避ける物のように激しくねた。

健のきが止まる。 その線が、乱れた私の襟元に向けられた。 隠そうと引きげたコートの隙から、々しいの痕が覗いていた。

の指の形。 首を力任せに締めげられ、壁に叩きつけられた痕跡。

「誰だ。誰にやられた」

普段は温な夫のから、聞いたことのないい声が漏れた。

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そのりの気迫に喉が塞がり、私はただ首を横に振ることしかできない。

言えるはずがなかった。 ぶりに敷居を跨ごうとした実の娘を、にたせたまま喉元を締めげたのが、実の兄だなんて。

そのだった。

「……お母さん?」

廊の暗がりから、さな声が響いた。 学の娘、美咲だった。

部着のままち尽くす美咲の顔は、血の気が引いて真っだった。 玄関の異様な空気と、に汚れた私の姿、に転がる気な箱。

そのすべてを見つめた、美咲はぎゅっと自分のスマートフォンを握りしめた。 その細い指先が、かすかに震えている。

「美咲、部に戻っていなさい」

健が制止するようにをげた。 だが、美咲はかなかった。

線をに落とし、震える唇を必に噛みしめている。 やがて、絞りすような声が静まり返った玄関に落ちた。

「……隠してたことがあるの」

私は濡れた髪の隙から、娘を見げた。

「、ずっとお母さんに言えなかった」

美咲がゆっくりと歩み寄り、差ししたスマートフォンの画面。 青いのに浮かびがっていたのは、見慣れたメッセージアプリの画面だった。

連絡先の表示名に、目が釘付けになる。

『おばあちゃん』

の芯が、キリキリとたく麻痺していく。

……は? どういうこと?

私の実母、澄。 私がに逃げして以来、度も言葉を交わすことのなかったあのが、なぜ娘の画面にいるのか。

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「の、インスタのDMに連絡が来たの。『志保の娘さんですか』って」

美咲の声がの奥で反響する。 画面をスクロールする指が、容赦なく過の記録を暴いていく。

『美咲ちゃん、模試はどうだった? 邪ひかないようにね』 『志保に似て、本当に賢くて優しい子ね。写真送ってくれてありがとう』 『お母さんには、内緒にしておこうね。あのはおばあちゃんのことが嫌いだから、美咲ちゃんが叱られちゃう』

優しい文面。 絵文字の添えられた、いかにも孤独な祖母が孫を気遣うような言葉の数々。

だが、スクロールがむにつれて、文字の底に潜む毒が濃くなっていく。

『志保はね、昔から自分のことしか考えられない子だったの』 『のおを勝に持って京へ逃げてね、孝志おじさんの学を諦めさせたのよ』 『あの子のせいで、うちは全部めちゃくちゃになった。でも美咲ちゃんは違うわよね?』

胃の底が、え切ったを流し込まれたようにくなる。 呼吸が浅くなり、界の端がチカチカと滅した。

「美咲……あなた、これ……」

「最初は信じてなかった」

美咲の瞳に、粒の涙が溜まっていく。

「でも、お母さんに実のこと聞いても、いつも誤魔化すじゃない! 聞いちゃいけない空気にして、全部避けて……だから私、自分で確かめなきゃってったの!」

「確かめるって、何を」

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