"もう私を「お母さん」と呼ばないで" 第8話
でも父さんは、いつも酒と煙の匂いをさせて、病院にはもいなかったって」
拓也の声が震え、嗚咽が混ざり始めた。
「父さんも……俺を騙していたのか。俺のっている族は、全部、嘘のに成りっていたのか?」
「正彦さんは卑怯だったわ」
私は徹に、容赦なく事実を告げた。
「再婚したも、あのは真由美さんの名を度もにしなかった。『過のことは蒸し返すな』って、私にもあなたにも蓋をして、自分だけ綺麗な父親でいようとした」
「なら、なぜ父さんと結婚したんだ!」
拓也が机を叩いた。乾いた音が内に響き渡る。
「そんな男だと分かっていて、なぜ!」
「……していたからよ」
私は喉の奥の渇きに耐えながら、答えた。
「そして、その卑怯さに乗っかることでしか、自分の居所を作れなかったから。……正彦さんだけが悪かったんじゃない。あののさを利用して、あなたの母親の座を奪ったのは、私自よ」
拓也は肩を激しくさせ、荒い息を吐いた。き父親への失望と、目のの継母への嫌悪。つのが、息子の体内で激しく衝突しているのが見て取れた。
やがて、拓也は静かに顔をげた。充血した瞳が、私を真正面から射抜く。
「……つだけ、答えてくれ」
「何?」
「もし、俺の実の母さんが病気にならず、おと父さんの倫がなかったら」
拓也の唇が、刻みに震えた。
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「おは、血の繋がらない俺を……ここまで育ててくれたか?」
部の空気が張り詰めた。
都のいい嘘なら、いくらでも言えた。『どんな運命であっても、私はあなたを育てた』そう言えば、しは息子のを救えたかもしれない。
だが、私はゆっくりと首を横に振った。
「……わからないわ」
「わからない?」
「起きなかった過の仮定で、あなたを慰めることはできない。……私は神様じゃないのよ、拓也。罪悪と、悔と、引き返せない現実ので、ただ目のにいたあなたを放りせなかった。それが、私の選んだ現実のすべてよ」
拓也は息を呑んだ。
「でもね」
私は言葉を継いだ。
「あなたがをして苦しんでいた夜も、学に落ちて悔し泣きしていたも、私があなたの痛みを自分のことのように願ったのは……嘘じゃない。それだけは、真由美さんへの言い訳でも、贖罪でもなく、私の本だった」
拓也は何も答えなかった。
ただ、鞄のから枚の古い写真を取りし、テーブルのに置いた。
褪せたカラー写真。歳の拓也が、真由美さんの膝のに乗り、満面の笑みを浮かべている。背景は、どこかの公園の噴だった。
「……俺さ」
拓也がぽつりと言った。
「母さんの声が、もういせないんだ」
胸の奥が、激しく軋んだ。
「どんな声で俺を呼んでいたのか、どんな匂いがしていたのか……いくらいそうとしても、聞こえてくるのは、おの声なんだよ」
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拓也は両で顔を覆った。指の隙から、粒の涙が零れ落ち、畳を濡らしていく。
「それが……悔しくてたまらないんだ」
私はを伸ばさなかった。その背を抱きしめる権利は、もう私にはない。ただ、息子の慟哭を、逃げることなくそのに座って受け止めることしかできなかった。
翌週、拓也から分い封が届いた。
に入っていたのは、あの向きの平の『売買契約解除通』の写しだった。違約の続きを済ませ、正式に撤回されたことを示す、無質な類。
千万円の親孝は、完全に消滅した。
私は通をテーブルのに置き、く息を吐いた。しみはなかった。ただ、張り詰めていた糸が本、静かに切れたような覚だった。
あの子は、千万円というで、私を「母親」として買い取ろうとするのをやめたのだ。そして私も、そのを受け取ることで、過を精算する資格がないことを証した。
私は話を取り、元の務に連絡を入れた。
「佐藤です。……以見ていただいた、根瓦の葺き替えをお願いできますか。ええ、私の名義で、持ちの資から支払います」
のにすがってきるのは、もう終わりだ。この漏りのする古い造平で、自分の稼いだの範囲で、できていく。それが、私が引き受けるべきこれからのの形だった。
数、郵便受けに、拓也からのいが入っていた。