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"百万円を積まれても、他人に戻る" 第16話

「美咲……! あ、赤ちゃんは……!?」

夫のが止まった。 保育器の横で産着に包まれるつのさな背と、分娩台で横たわる私の姿を見て、そのに崩れ落ちた。

「まれたのか……無事だったのか……」

夫の目から、粒の涙が零れ落ちる。 震えるで分娩台の脇に歩み寄り、私のを取ろうとして――私のたい線に射抜かれ、空でを止めた。

「……美咲、本当によく頑張った……ありがとう、本当に……」

「あなたが謝することじゃないわ」

掠れた声で、私は突き放した。

「この子たちは、あなたのために産まれてきたんじゃない」

夫が唇を噛み締め、痛みに耐えるように顔を歪めた。 そのだった。

夫のスーツのポケットで、スマートフォンの着信音がけたたましく鳴り響いた。 画面にる文字は、『母』。

夫は怯えたように画面を見つめ、源を切ろうとした。

「なさいよ」

私が言った。

「スピーカーにして。そのが最初に何を言うか、あなたが番よく聞くべきよ」

夫は息を呑み、迷い、震える指で通話ボタンを押し、スピーカーに切り替えた。

通話が繋がった瞬、受話からヒステリックな鳴り声が病の空気を引き裂いた。

『弘! あんた体どこにってるの! 美咲さんの実にがないって所のから聞いたわよ! 産まれたの!? ねえ、男の子なんでしょうね!?』

分娩のにいた助産師たちのが、ぴたりと止まった。

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内の誰もが、その異様な第声に凍りついていた。 母体の否を気遣う言葉も、産の労いもない。 にび込んできたのは、胎児の性別への浅ましい執着だけだった。

夫の顔から、急速に血の気が引いていく。

「……母さん」

夫の声は、をうようにかった。

『何よ、もったいぶらないでく言いなさい! とも男の子なんでしょう!? 藤原の跡取りが、もできたのよね!?』

「男の子だよ」

夫が言うと、スピーカーの向こうで狂の叫び声ががった。

『ああ、やっぱり! 神様、お父さん、ありがとう! これで藤原は泰よ! すぐに病院を教えなさい、お祝いを持って今すぐくから!』

「母さん」

夫の喉が、裂けんばかりに震えた。

「頼むから……黙ってくれよ」

『は? 何を言ってるの、おめでたいことじゃない――』

「美咲はにかけたんだぞ!!」

夫の絶叫が、病の壁を激しく叩いた。

「週で、激痛ので血を流して……美咲が命を削ってを産んだんだ! おは……おは美咲の体がどうなったかも聞かないのか!? 跡取りだの藤原だの、ふざけるのもいい加減にしろ!!」

通話の向こうが、を打ったように静まり返った。

『ひ、弘……? 何を鳴ってるのよ、私はのことを……』

「度と子供たちのに現れるな」

夫は涙を流しながら、吐き捨てるように告げた。

「葵と結を捨てようとしたおに、この子たちを抱く資格なんてない。

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おが欲しがっているのは孫じゃない。自分の見栄を満たすための具だ。俺たちの族を壊したのは、母さん、おだ!」

ブツン、と夫は自らので通話を切断した。

静寂が戻る。 スマートフォンの画面を見つめたまま、夫は肩を震わせて泣き続けた。

「……遅いわよ」

私は井を見つめたまま、静かに呟いた。

「え……?」

「その言葉を、に葵ので言ってほしかった。今さら母親を鳴りつけたって、あなたが私を裏切った過は消えないわ」

夫は力なく項垂れ、病のに両をついた。 もう、何の弁解もにしなかった。

翌朝、私は病棟の師と面談した。

「義母である藤原枝という物について、私および児への切の面会を拒否します。NICUへのち入りも厳禁にしてください。無断で侵入しようとしたは、即座に院内警備へ通報をお願いします」

「承いたしました。厳にセキュリティをかけ、面会者リストにない物は病棟入で完全に遮断します」

師は私の図をく察し、即座に子カルテのトップに警戒フラグをててくれた。

防波堤は築かれた。

そのの午、クリニックの元同僚である理が見いに訪れた。 には、私が頼んでいた類が入ったいレターパックを提げていた。

「美咲、無事で本当によかった……!」

理は私のやつれた顔を見るなり涙ぐんだが、すぐに表を引き締め、声を潜めた。

「あんたの言った通り、あの義母、午に階の総受付で騒ぎしてたわよ」

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