"百万円を積まれても、他人に戻る" 第6話
これは庭裁判所の調において、相方による極めて悪質な『経済DV』および『悪の遺棄』と評価されます」
「渡しに応じるつもりはありません」
「当然です。応じてしまえば、相の支配に逆戻りするだけです。こちらから即座に、内容証郵便で『婚姻費用分担請求』を送付します。裁判所の算定表に基づいた適正額を算し、未払い分を含めた支払期と振込先座を指定します。応じないは、庭裁判所へ婚姻費用分担調の申してをい、審判の保全処分として与の仮差押えも野に入れます」
「与の、差し押さえ……」
「ええ。相方の勤務先は把握できていますからね。会社にられることを恐れるタイプであれば、この段階で確実に青ざめます。藤原さんは何も恐れる必はありません。法な戦いの主導権は、完全にこちらにあります」
「わかりました。続き、すべてお願いいたします」
通帳をバッグの奥にしまい込み、私はの自ドアをた。
昼がりのが、コートの裾をたく揺らす。の空はどこまでもく澄み渡っていたが、私の胸の奥には、氷のように研ぎ澄まされた静寂が広がっていた。
泣いて夫に活費を乞うような真似は、絶対にしない。あの男たちが振りかざす『』という暴力は、法律という刃で叩き折る。
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実へ戻ると、古い造の居から、母の静かなと子供たちの笑い声が聞こえてきた。
「あ、お母さん! 見て、これ!」
葵が駆け寄ってきて、画用を広げて見せた。鉛で描かれた、匹のウサギの絵。きなウサギが真んにいて、その周りにさなウサギが匹。そして、きなウサギのお腹のに、さらにさな匹のウサギが丸くなっていた。
「赤ちゃん、ふたりいるんでしょう? 葵がね、お世話係するの」
歳の娘の無邪気な言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。私は笑顔を作り、葵のを撫でた。
「に描けたね。ありがとう、葵」
「お母さん、お顔、もう痛くない?」
「うん、もう全然痛くないよ」
葵の瞳の奥に宿る、かすかな怯えを見逃さなかった。あの、祖母から平打ちをらい、父親に見捨てられた母親の姿は、この子のにい傷を残している。がう以に、子供はすべてを察しているのだ。
私は母に娘たちを任せ、居の隅に置かせてもらったさな文机に向かった。
ノートパソコンをき、理から送られてきた医療事務のリモート作業用フォルダをちげる。クリニックから部委託された、レセプト(診療報酬細)の点検業務。病名と投薬内容の性、算定漏れや複請求のチェック。かつて正社員としてクリニックに勤めていた頃の覚が、指先に蘇ってくる。
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マウスを握るが、淡々とく。
画面に並ぶ数字と病名。文字のミスも許されない緻密な作業。けれど、この無質な数字を積みねるこそが、私にとっての救いだった。
で数百円、で数千円。夫の与に比べれば、微々たる額かもしれない。けれど、これはあのにをげて恵んでもらう施しではない。私が自分の技術とで、子供たちのために掴み取る、誇りある対価だった。
夕方、理からメッセージが届いた。
『美咲、データ届いたよ! 院が「相変わらず藤原さんのレセプトは完璧だ、返戻(差し戻し)がゼロで本当に助かる」って絶賛してた。来からも継続で枠を確保できるからね!』
『理、本当にありがとう。助かる』
返信を打つ指が、わずかに震えた。すぐに、理から話がかかってきた。
「もしもし、美咲? 体調はどう? お腹、張ってない?」
「丈夫。座ってできる作業だから、体には響かないよ」
話の向こうで、理がほっと息を吐くのが聞こえた。しかし、すぐに声のトーンが段くなった。
「……あのさ、美咲。ちょっとに入ったことがあるんだけど」
「何?」
「うちのクリニック、あの界隈の患者さんも結構来るじゃない? 今、あんたの元いたの所にんでるおばあさんが受診に来てさ。待で話してた内容を、受付の子が聞いてたのよ」
理は周囲を気にするように声を潜めた。
「あんたの義母、所に言いふらしてるらしいわ。『嫁が事もろくにせず、ワガママ言って孫を連れて実に逃げた』って。