"百万円を積まれても、他人に戻る" 第5話
別居の正当な理由は完全にこちらにあります。焦って婚届に判を押す必は微もありません」
「はい」
「まずは婚姻費用の分担請求をいましょう。活費の支払いは法律の義務です。相方が支払いを拒否、あるいは減額することは許されません」
田弁護士の淡々とした説が、何よりもかった。
実での活は平穏だったが、現実な問題も浮き彫りになっていた。 母のは続きの古い平で、娘と私が暮らすにはあまりにも狭だった。 それに、私のお腹には双子がいる。
まれてくれば、子供はになる。 暮らしの母に、これ以の負担をかけ続けるわけにはいかない。 刻もく、自分たちの活基盤を築かなければならなかった。
私は求職活を始めた。 妊娠期、しかも双子を抱えた状態での就職は絶望にえた。 しかし、かつて勤めていたクリニックの元同僚、理がを差し伸べてくれた。
「美咲、あんた医療事務のレセプト点検、自宅でリモート対応できるでしょ? うちの院に話したら、部委託のパートとして業務委託契約結んでくれるって!」
理の迅速な根回しのおかげで、私は自宅で作業できる仕事を確保することができた。 微々たる収入かもしれない。 けれど、自分ので稼ぎす円は、夫の顔を伺って恵んでもらう万円よりも、遥かに尊かった。
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並して、母のの所で賃貸アパートを探し回った。 エレベーターのない物件は除。 の子供を育てるためのスペースと、無理のない賃設定。 体力を削りながら、産を回る々が続いた。
そして、末。
私は実のくにある方のATMへ向かった。
夫の座から、取り決めていた当面の活費が振り込まれるだった。 通帳を械に入れ、記帳ボタンを押す。
ジジジ……と印字ヘッドがく乾いた音が内に響く。
械から吐きされた通帳をいた瞬、私の線は点で凍りついた。
今の振込欄。
夫の名は、どこにもなかった。
残表示の数字は、先からほとんど増えていない。 わずかに残った私の個貯が、寂しく印字されているだけだった。
残、万千円。
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
ATMのをた瞬、ポケットのでスマートフォンがく震えた。 画面をくと、夫からのメッセージだった。
『実に甘えてないで、反省したなら戻ってこい。活費は、戻ってきたら渡しする』
画面の文字が、酷に網膜へ焼き付く。
経済な締めげ。 を兵糧攻めに使って、私を屈させようという浅ましい算段。
私はスマートフォンの画面を消し、く、く息を吸い込んだ。
の青空が、く広がっている。
「……浅いわね」
私は呟いた。
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唇の端が、たく持ちがる。
夫はらないのだ。 婚姻費用の払いが、調においてどれほど致命な『悪の遺棄』と見なされるかを。 そして、私のお腹のに、この男たちの傲を々に砕する命が、も息づいていることを。
私は踵を返し、田弁護士の話番号をタップした。
ツーツーというたい発信音が、度鳴ったところで途切れた。
「はい、田法律事務所です」
受話器の向こうから届いた、落ち着き払った声を聞いた瞬、私の張っていた肩からわずかに息が抜けた。
「田先、藤原です。今、のATMにおります」
「藤原さん。お加減はいかがですか? 何かきが?」
「はい。今分の活費の振り込みがありませんでした。残を確認しましたが、円も入っていません」
私は通帳を握りしめたまま、を交えずに事実だけを伝えた。
「先ほど夫からメッセージが届きました。『実に甘えてないで、反省したなら戻ってこい。活費は戻ってきたら渡しする』と」
話で、が擦れるさな音がした。田弁護士の、いため息が漏れ聞こえる。
「……典型な悪ですね」
その声には、りではなく、獲物が罠にかかった瞬を見届けるような徹な響きがあった。
「婚姻費用の払いは、民法第百条が定める『夫婦の同居・協力・扶助義務』のな違反です。
しかも、妊娠の妻と幼い子供を抱えている状況をりながら、銭を盾にして屈させようとしている。