"手切れ金百万、消えた一億三千万" 第11話
現の広なリビングには、私の父が用していた無垢のオーク材のきなダイニングテーブルが置かれ、壁には成りの珪藻が塗られていた。には触りの良い然の無垢フローリングが広がり、きなガラス窓からは、入れのき届いた本庭園の々が清々しく見渡せる。
リビングの央に置かれた純の陶器の瓶には、母が何よりも好きだった百のが豊かに活けられ、部全体に凛とした甘やかな芳を満たしていた。
ピンポーン、と澄んだインターホンの音が鳴り響いた。
玄関をけると、私の個事務所「神崎・アソシエイツ」のシニアパートナーである若女性公認会計士の藤堂が、ビジネスバッグを抱えてれやかな笑顔でっていた。
「神崎先、おはようございます! 素らしいニュースをお持ちしました」
「おはよう、藤堂さん。どうぞ入って。お茶を淹れるわね」
リビングのオーク材のテーブルに案内すると、藤堂は興奮を抑えきれない様子で、最のタブレット端末を広げた。
「先週プレゼンをいました証プライムの総械メーカー『精』様から、来期の全社財務ガバナンス改革の専任アドバイザリー契約について、正式な内定のご連絡をいただきました! コンペに参加していた監査法社を抑えての、満致での指名です!」
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画面には、先方の最財務責任者(CFO)からの、私への絶な信頼を記した推薦メールが表示されていた。
『神崎栞先の極めて緻密な財務監査能力と、正を切見逃さない固な職業倫理観こそが、が社の再に欠であると判断いたしました』
「……よかったわ。チームのみんなが徹夜でまとめてくれた分析レポートの賜物ね」
私が穏やかに微笑むと、藤堂はくをげ、慨そうに言った。
「いいえ、先のお力です。先が独されてからのこの半、私たちの事務所に寄せられたオファーはすでに百件を超えています。かつて神崎デザイン事務所に先が注いでおられたエネルギーが、いま正当な所で、何倍もの価値となって結実しているんです。私たちスタッフ全員、先についてきて本当によかったとから誇りにっています」
「ありがとう、藤堂さん。でも、ここからが本当のスタートよ。信頼に応えられるよう、気を引き締めていきましょう」
「はい!」
午の打ちわせを終え、藤堂を笑顔で見送った、私は温かいハーブティーを淹れ、リビングの掃きし窓から庭へと続くテラスにた。
澄み切った群青の空が、どこまでもく広がっている。
たさのに確かなの息吹を含んだが、私の髪を優しく揺らした。
私はテラスのすりにを置き、静かに目を閉じた。
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という。
それは、私のにとって決していではなかった。
騙され、利用され、政婦のように見され、最も信頼すべき夫から裏切られ続けた々。
その暗のにいた頃の私は、自分がどれほどい沼に沈んでいるのかすら、麻痺して気づけなくなっていたのかもしれない。
「でも、お父さん、お母さん……私は戻ってきたわ」
胸元にを当て、のでき両親に語りかけた。
父が私に授けてくれた性と誇り。
母が教えてくれた、どんなも自分を裏切らない誠実さ。
それらは、悪と欲の嵐に吹き晒されても、決して壊れることはなかった。
むしろ、あの過酷な試練を自らの性と志の力で切り抜けたことで、私の魂は以よりもく、く研ぎ澄まされたのだとじる。
の権力にすがり、の財産を横取りして自分を偽る者たちは、の栄華に酔いしれることはできても、決して自したを歩むことはできない。彼らは自らが吐きした嘘のみと、尽きることのない虚栄によって、最には必ず自滅していく。
を真にへませるのは、誰にも奪うことのできない自らの実力と、どんな嵐のでも揺るがない信条だけなのだ。
ふと線を庭の片隅へ向けると、枯れの枝を広げていた古い梅のに、ふっくらと膨らんださな蕾がいくつも結ばれていた。
そののつが、柔らかなの陽をに浴びて、いま、凛とした清らかな弁を静かにき始めていた。
甘く、どこか厳格なりが、微に乗って私の元へと漂ってくる。
私はカップを傾け、温かい茶を含んだ。
頬に当たるはどこまでも温かく、私の元には、誰にも邪魔されることのない、しく誇りいがまっすぐに続いていた。