"手切れ金百万、消えた一億三千万" 第2話
私のく澄んだ声に、航平は苛ちをわにして眉をねげた。
「往際が悪いぞ、栞! 判を押せば百万円やると母さんが言ってくれてるんだ。つで追いされないだけ、ありがたいとえよ!」
航平の歪んだ傲な横顔を見つめながら、私はの来事を鮮にいしていた。
学を首席で卒業、監査法で公認会計士・税理士として激務をこなしていた私が、取引先を通じて航平と会ったのは歳のだった。
先代である航平の父親が急逝し、杜撰な経営の末に数千万円の負債を抱えて倒産寸だった神崎デザイン事務所。
途方に暮れて私ので涙を流し、「助けてくれ、君の力を貸してほしい」と懇願してきた航平の誠実そうな仮面に騙され、私は彼と結婚した。
父が遺してくれた遺産から千万円を事務所の運転資として注ぎ込み、夜は徹夜で財務再建計画を練りげた。
広告代理や企業の幹部たちに臭くをげ、デザインの仕事を取り次ぎ、黒字化のレールを敷いたのは、ならぬ私だった。
世田の階建ての豪邸も、過の借履歴のせいでローンの審査に落ちた航平に代わり、私の信用力と、父の遺産である信託財産を担保にして括購入したものだ。
しかし、神崎のは、誰としてその酷な現実を直しようとはしなかった。
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会社が軌に乗り、世田の豪邸にめるようになった途端、も美奈も「すべては神崎の貴な血筋と航平の才な才能のおかげ」と信じ込み、私を無償で働く政婦兼経理係として扱い始めたのだ。
「分かったわ」
私は静かにちがり、濡れたテーブルから歩を引いて、バッグを肩にかけた。
取り乱すことも、激昂して声を荒らげることもなく、の乱れを指先でえる。
「婚届は、しかるべき法続きを経て、私の弁護士を通じて提します。産の名義変更についても、法廷のでお返事いたしますわ」
「おい、待てよ栞! 今すぐここで署名捺印しろって言ってるんだ!」
ちがろうとする航平の腕を、梨がわざとらしく甘えた声をして引き留めた。
「いいじゃない、航平さん。どうせきのない女の、惨めな負け惜しみよ。今夜は私たち、本の級フレンチでお祝いのフルコースを予約しているんですもの。放っておきましょう」
も満そうにを鳴らし、元の扇子を優雅に揺らした。
「そうね。今夜に世田のから、あんたの物の荷物をすべてまとめててきなさい。以に残っているゴミは、全部用品回収業者に処分させるからね」
私はにこれ以の言葉を返すことなく、座敷の襖を静かに、そして完全に閉ざした。
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料亭のい畳廊を歩きながら、私はトレンチコートのポケットからスマートフォンを取りした。
縮ダイヤルの1番――き父の代からがの全幅の信頼を置いている、企業法務の権威・佐々弁護士へコールする。
「佐々先、栞です。……ええ、事のシミュレーション通りに事が運びました。直ちに『フェーズ・ワン』の制執続を始してください」
受話器の向こうから、百戦錬磨のベテラン弁護士の、くな声が返ってきた。
『解いたしました、栞さん。神崎デザイン事務所に対する個貸付の即繰還請求、ならびに世田の産に対する処分禁止の仮処分申請を、今から京方裁判所へ提します。……覚悟はよろしいですね?』
「ええ。分には、すべての専用座の資隔を完させます。神崎が私から搾取してきたすべてのもの、その円に至るまで、法な利息をつけて完全に清算していただきます」
料亭の格式あるをくぐり抜けると、たいのカーテンの向こうに、配しておいたハイヤーの黒塗りの体が静かに佇んでいた。
部座席に乗り込むと同に、私は備え付けの折りたたみテーブルをき、暗号化通信を施したノートパソコンをちげた。
画面に表示されたのは、スイス系プライベートバンクの信託管理画面と、神崎デザイン事務所のメイン決済座だった。