"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第14話
かつての私なら、この姿を見たら緒に泣き崩れていたかもしれない。
「分かってくれたのね」と相を抱きしめ、再びあの獄の卓へ戻っていたかもしれない。
けれど。
私の胸の奥に広がったのは、恐ろしいほどの静寂だった。
波つたない、凍りついたのような静けさ。
「修さん」
私は傘をし傾け、たいのにつ元夫を、まっすぐに見据えた。
「そのお弁当、自分でべなさい」
修が、すがるように顔をげた。
「……え?」
「自分で作ったんでしょう? 焦げていても、形が崩れていても、あなたが自分ので作った、あなたのための事よ。に持って帰って、でべなさい」
「美紀……俺と緒にべてくれないのか? でいいんだ、俺の謝罪だとって――」
「べません」
私は歩も引かずに、決定な言葉を告げた。
「私はもう、別の男性からプロポーズを受けました。そして、それを受け入れました」
修の呼吸が、完全に止まった。
目を見き、を半きにしたまま、に打たれたように直する。
「……え? プロ……ポーズ……?」
「いうちに、公正証で婚契約を交わして、しい活を始めます」
嘘ではない。
誠さんとのでめている、対等なパートナーシップとしての約束。
それを、私はこの男の逃げを完全に断つための、鋭利な刃として突き刺した。
「そんな……嘘だろ……? 婚して、まだ半だぞ……!? 誰なんだよ、そいつは! 俺より稼ぎがいいのか!? 俺より派な男なのか!?」
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修の声がずり、惨めな嫉妬と混乱が剥きしになる。
その質問の浅ましさに、私は笑を浮かべた。
「比べることが、そこしかないのね」
「何……?」
「そのはね、私に事を作らせるためにプロポーズしたんじゃないわ。私が自分のでち、自分のを追う姿を、ただ隣で見守るためにを差し伸べてくれたよ」
修の顔から、完全に気が失われた。
の肌が、のを反射して青くる。
「あなたは変わったわ。それは認める。でもね」
私は最の撃を、静かに、確実に叩きこんだ。
「あなたが反省したからといって、私があなたを許す義務も、過に戻る理由も、どこにもないのよ」
修の喉から、ヒュウ、と空気が抜けるような音が漏れた。
から力が抜け、抱えていた紺の弁当箱が、舗装されたアスファルトのに落ちた。
鈍いプラスチックの音が響き、蓋がれる。
のに、苦労して焼いたであろう歪な汁巻き卵が、無残に転がりた。
修はそれを拾おうともせず、ただ膝をつき、両で顔を覆って慟哭した。
がまる。
私は落ちた弁当箱にも、に塗れた元夫の背にも、度と線を落とさなかった。
傘を差し直し、駅のアスファルトを蹴って歩きす。
背から響く男の泣き声は、通り過ぎるの轟音にかき消され、やがて完全に聞こえなくなった。
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の呪縛が、たいのとともに、完全に洗い流された瞬だった。
だが、過の霊を切り捨てたからといって、私のしいが平坦なになったわけではなかった。
曜の夜。
私は誠さんの古の奥、改装準備がむ階の作業にいた。
「美紀さん、本当に丈夫かい? し根を詰めすぎじゃないかな」
脚ので古い棚の拭き掃除をしていた誠さんが、配そうに私を見ろした。
私は作業台ので、猛烈な勢いでチラシの宛名貼りを続けながら、作り笑いを返した。
「丈夫です。これくらい、のでやってたことに比べたら何でもありませんから」
元には、来週催される『域自主企画コンペティション』の提類。
公民館の調理を、半固定で価に利用できる権利をかけた、政の公式選考会だ。
これに採択されれば、私の料理教は「単発のワークショップ」から、域に根ざした「常設のコミュニティカフェ&料理教」へと昇格できる。
私の、代からの独をかけた、最の勝負だった。
それなのに。
私はこの、夜の眠を削って、誠さんのの雑務を抱え込んでいた。
改装に伴う古い帳簿のデータ入力。
のSNS更用の写真撮。
そして、誠さんのための作り置きの常備菜作り。
蔵庫をければ、私が昨夜の夜に仕込んだ、きんぴら牛蒡や煮豆のタッパーが然と並んでいる。