"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第9話
「いや、そういうで言ったんじゃない! ただ、経済にも理だし、緒にいた方が――」
「理だからといって、私の尊厳まで差しす気はありません」
空気が、痛いほど張り詰めた。
誠さんは傷ついたように眉を寄せ、を閉ざした。
私たちが初めてぶつかりった、決定な価値観の断絶だった。
そのだった。
カランコロン、と。
閉したはずののドアベルが、けたたましい音をてて鳴り響いた。
「お父さん、まだ起きてる?」
澄んだ、けれどどこか棘のある若い女性の声が、夜の内に響いた。
背負っていたきなリュックをにろし、マフラーをしながら入ってきたのは、歳になる誠さんの娘、遥ちゃんだった。
突然の来訪に、誠さんは慌ててちがった。
「遥? どうしたんだ、連絡もなしに。週末に帰る予定じゃなかったのか?」
「幹線のチケットがく取れたから。……それより、お父さん」
遥ちゃんは父親の言葉を受け流し、カウンターの奥に座る私を、まっすぐに見据えた。
きな瞳の奥に、隠しようのない警戒と鋭いが宿っている。
「あなたが、佐藤さん?」
私は子からちがり、軽くをげた。
「初めまして、佐藤美紀です。お話は伺っていました」
「ふうん……」
遥ちゃんは私のからつま先までを値踏みするように眺めると、カウンターの端に置かれた取り図に目を留めた。
広告
「何これ。階のリフォーム?」
誠さんが気まずそうに咳払いをする。
「いや、これは……美紀さんと、これからの活について話していてね」
「へえ」
遥ちゃんはややかに角をげた。
「お父さん、もうその気なんだ。ずいぶん話がいね」
内を包む気まずい沈黙。
誠さんが何かを言いかけるのを制して、遥ちゃんはスタスタと歩み寄り、私の正面にった。
歳の若さが放つ、容赦のないエネルギー。
「佐藤さん。単刀直入に聞いていいですか?」
「ええ、どうぞ」
逃げずに、線を受け止める。
「あなた、本当にお父さんと結婚したいんですか?」
誠さんが「遥、失礼だぞ!」と声を荒らげたが、遥ちゃんは父親を無して、私だけを睨みつけた。
「お父さん、もうすぐですよ。今は元気だけど、あともしたら体も壊すかもしれない。このだっていつまで続くか分からない。……あなた、の旦さんと別れてまだ半なんでしょう? できていくのがだから、優しそうなお父さんに乗り換えて、老の面倒を見てもらおうとしてるんじゃないんですか?」
鋭いナイフのような言葉だった。
かつての私なら、傷ついて涙を浮かべ、「そんなつもりはありません」と弁解していただろう。
だが、今の私には、その棘の奥にあるものがに取るように分かった。
これは悪ではない。
父親を奪われることへの恐怖と、かつてこので起きた『何か』に対する、必の防反応だ。
広告
「遥ちゃん」
私は穏やかな声で、けれど歩も引かずに言った。
「私は、誠さんに養ってもらう気はありません」
遥ちゃんが眉をピクリとかす。
「さっき、誠さんにお断りしたところなの。このの階にはまないって」
「……は?」
「私は自分のアパートで、自分の料で暮らします。賃も費も、自分の分は自分で払う。誠さんに老の面倒を見てもらおうなんて、これっぽっちもっていません」
遥ちゃんは虚を突かれたように目を丸くし、それから父親を振り返った。
誠さんは困ったようにを掻き、さく頷いた。
「本当だよ。美紀さんは最初から、私の財産にもにも頼る気はないって言ってるんだ」
遥ちゃんは腕を組み、納得のいかない様子で私を睨み直した。
「じゃあ……なんで結婚するのよ。別々に暮らして、おも別なら、結婚するなんてないじゃない」
「なら、これから作っていくのよ」
私は微笑んだ。
「誰かに養ってもらうためでも、誰かの政婦になるためでもなく、ただの自したとして、美しいものを緒にべて、お互いの無事をびうために。それじゃあ、駄目かしら」
遥ちゃんは唇を噛み締め、それ以何も言えなくなった。
その夜、誠さんが階の客に遥ちゃんの布団を敷きにっている、私はく支度をえ、をることにした。
玄関で靴を履いていると、背から音がづいてきた。