"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第8話
数、私は別のルートから修の向をることになった。
私の勤務先の取引先である事務器メーカーに、修の同期が勤めている。
昼休みにロビーですれ違った際、相が苦笑い交じりに打ちしてきたのだ。
「佐藤さん……いや、今は旧姓でしたよね。田、先週いきなり会社に『介護休業』の申請してきたんですよ」
「……そうですか」
「急に母親が術することになったらしくて。営業の引き継ぎもろくにしないまま休職に入ったもんだから、課がカンカンでね。あいつ、普段からのことなんて何つやってこなかったから、病院の類枚くのにもオロオロして、総務に泣きついてるらしいですよ」
「自業自得です」
私が微笑みもせずに答えると、同期の男性はさく肩をすくめた。
「全くだ。あいつ、奥さんが全部やってくれてた頃は『女なんて飯作ってればいいんだ』なんて豪語してたくせに、いざ自分が当事者になったら週も持たないんだから、笑えない冗談ですよ」
男が、自活のみに押し潰されていく。
かつて私が、誰の助けもなく背負わされていた圧を、今度は自分自の肉体で受け止めているのだ。
それは復讐ですらない。
ただ、世界が正常なバランスを取り戻しただけの話だった。
曜の夜、私は誠さんの古を訪れていた。
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閉の静かな内で、棚の理を伝い、で温かい珈琲をむのが、ここ最の穏やかな習慣になりつつあった。
だが、今夜の誠さんは、どこか落ち着かない様子だった。
珈琲カップをソーサーに戻すカチャリという音が、いつもよりしい。
「美紀さん」
誠さんが、を決したように私を見つめた。
「何ですか、改まって」
「先の、求婚の返事のことなんだけどね」
誠さんはカウンターのから、枚の取り図を取りしてテーブルに広げた。
それは、この古の建物の図面だった。
「このの階、今は私の居スペースになってるだろう? 畳がに、さなダイニングキッチンがある。遥も学の寮に入っているから、部は余っているんだ」
誠さんの指が、階の寝とかれた部分を指す。
「もし私たちが籍を入れるなら、美紀さんのアパートを引き払って、ここに入ってもらえないだろうか。そうすれば賃も浮くし、美紀さんが公民館でやる料理教の仕込みだって、ここのキッチンを使えばいい。何より……いつでも緒にいられる」
誠さんの瞳には、純粋な善と期待が宿っていた。
私を束縛しようとか、利用しようという悪は微もない。
ただ、するとつ根ので暮らしたいという、極めて般な願いだった。
けれど。
取り図を見つめた瞬、私の喉の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
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『アパートを引き払う』
その言葉が、ので警報のように鳴り響いた。
婚して半、私が自分の名義で契約し、自分の力で敷礼を払い、自分の好きなカーテンを選んだ、あのさな畳のアパート。
誰の嫌を伺う必もなく、夜にで本を読み、誰のためでもない自分のための珈琲を淹れられる、私の聖域。
それを放して、この所に入る?
誠さんは優しいだ。修のような理尽な求はしないだろう。
けれど、この階にめば、私は階の古の帳簿を伝い、埃を払い、誠さんの事を作り、やがてはそれが『妻の当たりの役割』になっていくのではないか?
誰かのに借りをした瞬、私は再び、自分を削って相に尽くす『都のいい女』に逆戻りしてしまうのではないか。
背筋に、たい汗が滲んだ。
「……誠さん」
私は取り図から線をげ、静かに首を横に振った。
「嬉しいお話ですが、私、自分のアパートを引き払うつもりはありません」
誠さんの表が、凍りついた。
「え……?」
「私は、あの部が気に入っているんです。自分のでって、自分の力で維持しているあの空を、放したくありません」
「でも、美紀さん……夫婦になるんだよ? 別々に暮らすなんて、それじゃあ結婚するが……」
「どうしてですか?」
私は引きがらなかった。
「どうして結婚したら、女の方が自分のを捨てて、男のに転がり込まなければならないんですか?」