みかん小説
本棚

"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第7話

「……そうですか」

「そうですかって、お……! 入院の続きがほどあるんだよ! 保証の欄にサインして、病のタオルや寝巻きの準備をして、退院の世話だって……! 俺、来週は事な営業のプレゼンがあって、ずっと病院に付き添うなんて無理なんだ!」

唾をばしながら捲しててくる声。

その裏にある計算が、透けて見えすぎて吐き気がした。

「だから美紀、おが来てくれ。から入院の準備がある。おが付き添ってくれれば、俺も仕事に穴をけずに済むし、母さんだってする。頼むよ、だけでいいから!」

だけでいい。

その言葉の嘘を、私は痛いほどっている。

度でも現に顔をせば、「入院の着替えの洗濯」「術のリハビリの付き添い」「退院の事の世話」へと、なし崩しに求が膨れがっていくのだ。

あの族は、の境界線に度を踏み入れたら、骨の髄まで吸い尽くすまで決してていかない。

「修さん」

私は静かに言った。

「入院案内は、もう受け取りましたか?」

「は? ああ、さっき護師から渡されたけど……文字が細かくて読んでる暇なんてないよ!」

「読みなさい。抵の総病院には、料のアメニティセットがあります」

「アメニティ……?」

「数百円で、寝巻きもタオルも歯ブラシも全部病院側が用して、洗濯まで業者に丸投げできるシステムです。

広告

あなたが実からタオルを運ぶ必も、私が洗濯をする必もありません。それを利用してください」

受話器の向こうで、修が息を呑む配がした。

「そんなの……無駄じゃないか! おがやればタダで済むんだぞ!?」

本音が漏れた。

無駄。タダ。

やっぱり、この男にとって私は、注費用を浮かせるための『無料のインフラ』でしかなかったのだ。

「私はです」

私ははっきりと、酷に言い放った。

「あなたの切な母親でしょう? 数百円のタオル代すら惜しむんですか?」

「美紀、お……!」

「それから、退院の活が配なら、病院の『域連携』へきなさい」

「域連携……?」

「そこには医療ソーシャルワーカーが常駐しています。退院に向けた介護保険の申請続きや、ケアマネジャーの選定、退院直から使えるデイサービスやヘルパーの配まで、すべて専が相談に乗ってくれます。息子のあなたがやるべきなのは、元妻に泣きつくことではなく、ソーシャルワーカーと面談することです」

「俺は忙しいんだって言ってるだろ! 会社を休めるわけないだろうが!」

修の声が、受話器をビリビリと震わせた。

「会社に、介護休業を申請してください」

「はあ!?」

「育児・介護休業法で定められた、労働者の正当な権利です。対象族につき、通算まで取得できます。

広告

会社に申請をせば、介護休業付もます。あなたが仕事を放りす必も、クビになる配もありません」

私は淡々と、制度の名称を並べてた。

経理と総務の事務を担当してきた私にとって、これらの法律や制度は、自分と切な活を守るための基礎識だった。

で鳴り散らす男に対して、徹な制度という名の刺刀を突き刺していく。

「お……なんでそんなこと……」

修の声から、気が引き、戸惑いと狼狽が滲みしていた。

泣き落としも、世体の脅しも、まったく通用しない。

目のにいる元妻が、自分の都の良い世界の側に完全にっていることを、ようやく悟り始めたのだ。

「無料の政婦は、もうこの世にい业ません」

私は最后の引きを引いた。

「親の面倒を見るのは、息子のあなたの仕事です。度と、私を巻き込まないで」

「待て、美紀! 母さんが……母さんがおに謝りたいって言ってるんだ! 退院したら、ちゃんと謝るからって――」

ピッと、通話終ボタンを押した。

そして、その番号を着信拒否リストに追加した。

湯の蛇をひねり、たいで指先を洗う。

臓は鐘を打っていたが、迷いはなかった。

に流されてを差し伸べることは、優しさではない。

それは相の甘えを肯定し、自分を再び贄の祭壇に捧げるだけの、愚かな共依だ。

私は蛇を止め、ペーパータオルで丁寧にを拭いた。

午の業務に戻る私の取りは、驚くほど確かだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: