"離婚半年後、元夫が15年前の弁当箱を抱えて訪ねてきた" 第2話
たく告げると、修は怯えたように線を泳がせた。
そして、持っていたビニール袋から、擦り切れた布包みを取りした。
包みを解いて現れたのは、紺のプラスチック製の弁当箱だった。
蓋の角がく擦れ、パッキンが黄く変している。
、結婚して最初の誕に、私が彼に贈ったものだ。
「これ……覚えてるだろ」
修の乾いた唇が、震えながら言葉を紡ぎす。
「押し入れの段ボールを理してたら、てきたんだ。に、これが入ってた」
彼が弁当箱の蓋をけ、震える指先で取りしたのは、つ折りにされたさなメモ用だった。
経劣化で茶く変した片。
そこには、歳だった私の、まだ丸みの残る跡が残されていた。
『毎お弁当作るね。ふたりで緒に、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで』
胸の奥の、ずっと昔に壊したはずの神経が、ちくりと痛んだ。
あの頃の私は、この男をしていた。
起きして卵を焼き、姜焼きを詰め、相がぶ顔を像することが、自分の幸せのすべてだと信じ込んでいた。
その純粋さを踏みにじり、都のいい政婦として飼い殺しにした張本が、いま、そのいを盾にして私のにっている。
「美紀、俺が悪かった。あの頃のおを、俺はずっと忘れてたんだ」
修の声がずり、涙がその乾いた頬を伝い落ちる。
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「もう度、やり直せないか」
私はメモ用から静かに線をし、男の赤く充血した目を見据えた。
「ここには入れません。話があるなら、駅のカフェにきましょう」
チェーンをし、コートを羽織る。
自分のテリトリーに歩たりとも踏み込ませないこと。
それが、過の霊からを守るための、私の絶対な防壁だった。
駅のドトールは、休の昼ということもあり、買い物客や読をする学でそこそこの賑わいを見せていた。
奥の掛けの席に腰をろす。
修はブレンドコーヒーのカップを両で包み込み、まるでを取るように指先を震わせていた。
よく見ると、の親指と差し指に、器用な巻き方をした絆創膏が貼られている。
自炊を試みて、包丁で切ったのだろう。
かつての私なら、それを見ただけで胸を痛め、薬局でしい絆創膏を買いにっていたかもしれない。
けれど今の私のは、驚くほど静かに凪いでいた。
「母さんから、話があっただろ」
修がカップを見つめたまま、く呟いた。
「着信拒否にしました」
「……そうか」
彼はさく肩をすくめ、乾いた笑いを漏らす。
「母さん、最膝が悪くてさ。週に回、形科へ連れてかなきゃならないんだ。でも俺、仕事もあるし、洗濯も溜まるし、夜にスーパーの惣菜を買いにく気力も起きなくて……気づいたら、部ゴミ袋だらけになってた」
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「域包括支援センターには相談しましたか?」
私の事務な問いに、修は怪訝そうに眉を寄せた。
「は? ほうかつ……何だって?」
「包括支援センターです。お義母さんの介護認定の申請や、ヘルパーの配を相談できる公関ですよ。区役所や域の窓で教えてもらえます」
「いや、そんなに払って頼むようなことじゃないだろ」
修は苛たしげにを振った。
「族の問題なんだから。美紀、おが戻ってきてくれれば、全部解決するんだよ。母さんの通院だって、おがをしてくれれば済むし、事だって……おが作ってくれたほうが、くて美いに決まってる」
悪びれもせず、当然の権利のように吐きされた言葉。
私のの奥で、カチリと何かが噛みう音がした。
この男は、何つ変わっていない。
反省したのではない。
ただ、無料で自分のの回りをえ、老いた母親の介護を丸投げできる『都のいい』を失って、活がちかなくなっただけだ。
「戻ってくれれば、ふたりとも楽になる」
修がを乗りし、私の元に線をわせてくる。
「俺だって、みたいに偉そうにしない。ゴミしだって伝うし、週末の掃除だってやる。だから……」
「ねえ、修さん」
私は遮った。
声のトーンをつ落とし、静かに相の瞳を射抜く。
「ののこと、覚えてる?」
修は虚を突かれたように目を瞬かせた。