"ICUを出たら、私の家に弟一家が住み着いていた" 第1話
呼吸器の管が喉から引き抜かれたのは、事故から目の朝だった。
激痛でまともに息が吸えない。
トラックに側面から衝突され、の複雑骨折と肋骨本の亀裂。全の打撲。
集治療から般病棟の個へ移されたの午、病の引き戸がガラガラと音をてていた。
入ってきたのは、母の千代子だった。
歳になる母は、私の元に吊るされた牽引器具を瞥しただけで、パイプ子に腰をろした。
「真由美、災難だったわね」
形式ばかりの労いの言葉。声に揺のは微もなかった。
「……お母さん。来てくれたの」
喉がカラカラに張りつき、かすれた声しかない。胸が痛んで呼吸が浅くなる。
母はハンドバッグの留めを指先で弄びながら、私の顔を見ずに言った。
「それでね、真由美。ちょうどよかったわ」
……ちょうどよかった?
にかけて病に転がっている娘に対して、このは今、何と言ったのか。
「健たちのことなんだけどね。昨、あんたのに荷物を全部運び込ませたから」
胸の奥の酸素が、瞬で凍りついた。
「……は?」
「あの子たちのアパート、今で更だったでしょう。狭だし、賃ももったいないじゃない」
母は何の罪悪もない、世話でもするような軽な調で続けた。
「子どもたちも学になって部が必だしね。
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あんたは当分、退院できないんでしょう? を空けておくくらいなら、健たちにんでもらったほうがのためにもいいわ」
の奥で、図のモニター音がけたたましく鳴り響いたような錯覚に襲われた。
喉の奥がひりつく。折れた肋骨がきしむ痛みをこらえ、私は母の目を睨みつけた。
「誰のだとってるの。私の許もなく、勝に……」
「何を取り乱してるのよ」
母は眉をひそめ、底から面倒くさそうに吐き捨てた。
「あんたには夫も子どももいないじゃないの」
病の空気が、気にく淀んだ。
「きりでそんなきなにんでどうするの。にかけた体に、部もある軒なんて必ないでしょう」
母はちがり、私のベッドサイドの柵に両を置いた。
そのたい線が、無防備な私の顔を見ろす。
「どうせあんたがんだら、あのは健が継ぐんだから。ちょっとくなっただけよ」
言葉がなかった。
りよりも先に、全の血液が先から気に引いていくような悪寒がる。
父が界してからの。
血圧と膝の痛みを抱える母を支え、病院の送り迎えをし、活費を面し続けてきたのは誰だったのか。
このは私の配をしに来たのではない。
私が識を失い、きが取れない隙を見計らって、する息子のために私のを奪いに来たのだ。
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「……ていって」
「真由美?」
「今すぐ、部からていって」
歯の隙から絞りすような私の声に、母はを鳴らした。
「親に向かってそんな言い方がある? せっかく族が助けおうとしてるのに、本当にげのない子ね」
母は踵を返し、度も振り返ることなく病をていった。
パタン、と無質な音をててドアが閉まる。
私は井のい膏ボードを見つめながら、荒い息を繰り返した。
涙は滴もなかった。
泣いている暇など、秒もなかった。
の甲に刺さった点滴の針をかばいながら、ベッド脇のサイドテーブルにを伸ばす。
指先が微かに震えていた。
震えを止めるためにく拳を握りしめ、スマートフォンのロックを解除した。
画面に表示された弟の健の番号をタップする。
コール音が回鳴って、ようやく繋がった。
「もしもし、姉貴? 体、丈夫なの?」
スピーカーから聞こえてくる弟の声には、わざとらしいほどのるさと、隠しきれないろめたさが滲んでいた。
「健。今、どこにいるの」
「え? どこって……あー、ちょっと用事でさ」
「私のにいるんでしょう」
通話の向こうで、息をむ気配がした。
「母さんから聞いたの? 違うんだよ姉貴、あれはな避難っていうかさ」
「?」
「アパートの退と次の更がなって、子どもたちの転の続きとか々あってさ。
ヶだけ、本当にヶだけ借りさせてほしいんだよ」
息を吐くように嘘をつく。