"「格下」の同級生に頭を下げる夜" 第7話
ホットコーヒーを注文した彼女は、運ばれてきたカップに両を添え、その温もりを確かめるようにしばらく俯いていた。
沈黙を破ったのは、千の方だった。
「くんと……ここで会っていたのね。駅の改札ですれ違ったわ。ひどい顔をして歩いていったから、すぐに分かった」
「ああ。し話をした」
千はさく息を吸い、私の目をまっすぐに見つめた。
「藤森くん。私、昨夜の同窓会が終わってから、もできなかったの」
その瞳には、い悔と、自らを責める痛ましさが滲んでいた。
「桂くんが、あなたの顔にお酒をかけた……私、何もしなかった。ただを向いて、くこのが過ぎればいいって、そればかり考えていたの」
「……あのにいたは、みんなそうだった」
「違うの」
千は首をく横に振った。
「みんながそうだったからって、自分が許される理由にはならないわ。私、歳にもなって、庭も持って、社会にて働いているのに……あの瞬、完全に歳のあの教に戻っていたの」
千の指が、カップの縁をきつく握りしめる。
「ののこと、覚えてる?」
唐突な問いかけに、私は眉を寄せた。
「……?」
「あなたの机のに置いてあったお弁当を、桂くんが勝に取りげて、みんなに見せびらかしたのことよ」
記憶の奥底に沈んでいた景が、たいのように気に蘇ってきた。
広告
あの、私の弁当箱に入っていたのは、母がの晩の残りを詰めてくれた、えたご飯としの漬物、そして崩れた卵焼きだけだった。
桂はそれをく掲げ、教に聞こえる声で嘲笑ったのだ。
『おい見ろよ! 藤森んのメシ、刑務所より質素じゃねえか!』
教に響き渡った笑い声。
私は何も言わず、桂のから弁当箱を奪い返し、蓋を閉めた。
言い返せば、母が朝からへくに作ってくれたその弁当が、さらに惨めなものになってしまうような気がして、ただ奥歯を噛みしめて耐えていた。
「あの、私、あなたのすぐ斜めに座っていたの」
千の声が、微かに震えていた。
「止めなきゃいけないって、叫ばなきゃいけないってった。でも……桂くんが私の方を振り返って、『千もそううだろ? こんなのえないよな』って笑いかけてきたの」
千は目を伏せ、い睫毛を震わせた。
「怖かったの。もし『そんなこと言っちゃダメだよ』って言い返したら、から私が標にされるんじゃないかって……。だから私、笑いもしなかったけれど、ただを向いて、教科の文字をじっと見つめてやり過ごしたの」
「千……」
「それだけじゃないの」
千は顔をげた。
その瞳には、抱え込み続けてきた痛切な記憶が宿っていた。
「私ね、そのの放課、職員へったの」
広告
私の臓が、ドクンと嫌な音をててねがった。
「職員……?」
「ええ。担任の、田先のところへったわ。桂くんたちが藤森くんにひどいことをしているって、ちゃんと見てあげてほしいって、泣きながら話したの」
らなかった。
そんなことが、あの教の裏側で起きていたなど、私は、ほどもらなかった。
「先は聞いてくれたわ。『分かった、俺から桂に言っておく』って。でも……次の週、先は桂くんを廊に呼びして、数分何かを注しただけだった。桂くんは舌打ちをして教に戻ってきて、、はしくしていたけれど……すぐに元に戻った」
千は乾いた唇を噛んだ。
「先はそれ以、何もしてくれなかった。桂くんの親がPTAの役員をやっていたからなのか、それともクラスの雰囲気を壊したくなかったのか……理由は分からない。でも、は誰も本気で助けてくれないんだって、そのに痛したの。それから私……完全にを閉ざすようになった」
喫茶のBGMが、くの方で微かに流れている。
、私が教の片隅で孤独に耐えていた、私のすぐそばで、恐怖に怯えながら職員へを運んでいた女がいた。
そしてそのさな勇気もまた、たちの事なかれ主義によって、静かに握り潰されていたのだ。
「私ね、昨の同窓会で、あなたがお酒をかけられた瞬……と同じようにを向いてしまった自分に、吐き気がしたの」