"売却済みの洋食店で、女将ごっこをする女" 第9話
本は受話器の向こうで、く息を吐きした。
「……その、あの女……原田玲奈が、浩司に向かって詰め寄ったらしい」
「そう」
私は窓の、たいの夜空を見つめながらく答えた。
「美緒さん、おは正しかったよ。あいつらは、自分たちのついた嘘のみで、勝に自滅していくところだ」
話を切った、部のにはい静寂が戻ってきた。
計の針は、夜のを回っていた。え切った空気が、元から忍び寄ってくる。
その、スマートフォンの画面が再びるくなった。
通のプレビューには、原田玲奈の名。だが、昼の攻撃な調は完全に消え失せていた。
画面をくと、送信されたばかりのメッセージがだけ、震える文字のように表示されていた。
『浩司さんを問いただしました。……あのは、全部っていたと言いました』
私は画面を見つめたまま、指をかさなかった。
っていた。そう、浩司はずっとっていたのだ。自分には何の所権もなく、を誰かに譲る権限など最初から微もないことを。
それでも男としての見栄を守るために、妻には「謝している」と嘘をつき、母親には「俺のだ」と嘘をつき、そして若いには「おを女将にする」と嘘をつき続けた。
そして今、その嘘のすべてのツケが、浩司の喉元に突き刺さろうとしていた。
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夜。浩司のアパートので交わされているであろう、沼の罵りいを像しながら、私は静かに携帯話の源を落とした。
翌朝、え切ったのがカーテンの隙から差し込んでいた。
洗面台の鏡に映る自分の顔を確かめる。目元に翳りはない。の澱をすべて吐きすための覚悟だけが、静かに瞳の奥に宿っていた。
午。エム・フーズ主催による「経営体制に関する全体説会」が、瀬亭の客席でかれる。私は元株主として、過の権利関係および財務の引き継ぎ確認のためにち会いを求められていた。
のに着くと、い製の引き戸には「臨休業」の札が掲げられていた。鍵をけてへ入る。
すでに内の空気は、針を刺せば爆発しそうなほど張り詰めていた。
客席の央に、いテーブルが設えられている。座には、エム・フーズ代表の黒田真理と、顧問弁護士、そして監査担当の男性。向かい側には、厨コートを脱ぎ、くたびれたジャケットを羽織った浩司が座っていた。
浩司の目は真っ赤に充血し、無精髭が顎を覆っている。もしていないのは目瞭然だった。昨夜、あの女とどんな獄のを過ごしたのか、そのやつれた横顔が雄弁に物語っていた。
その斜めろに、義母の幸子が腰掛けている。
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いつもなら寸分の狂いもなくえている髪が、今朝はし乱れていた。膝のに置かれた両が、りとで刻みに震えている。
そして――テーブルの番端。原田玲奈がいた。
昨までの淡い桜のエプロンはされていた。黒いタートルネックに、暗いグレーのタイトスカート。化粧はく、顔はのようにい。元には、パンパンに膨らんだ袋が置かれていた。
私が入した瞬、浩司の線が突き刺さるようにんできた。怨嗟、焦燥、そして願。ぐちゃぐちゃに混ざりったの塊。
私はその線を完全に無し、黒田の隣、指定された席に静かに腰をろした。
「定刻となりましたので、始めます」
黒田の質な声が、静まり返った内に響いた。
「本は、株式会社エム・フーズによる瀬亭の事業承継、ならびに今の事体制についてご説いたします」
黒田は元の資料に線を落とし、淡々とした。
「まず、厨およびホールの雇用関係について。料理の本修様、ならびにホール責任者の織様をはじめとする現スタッフの雇用条件は、現準を維持、もしくは能力を加算した形で再契約を締結いたします」
厨の入りにっていた本とが、静かに礼した。従業員たちの揺は、この言で完全に鎮された。
彼らにとってなのは、「の血脈」などではなく、々の暮らしと、誠実に料理を提供できる職環境なのだ。
黒田は線をげ、浩司を真っ直ぐに見据えた。