"売却済みの洋食店で、女将ごっこをする女" 第3話
「……あら?」
玲奈が顔をげた。 まだ分。入のドアには「準備」の札が掛かっているはずだった。
「申し訳ありません、お客様。本の営業は半からでして……」
玲奈が笑いを浮かべながら、エプロンの裾を払って入へ向かう。 自ら「女将」として最初の客をもてなそうという、浅はかな自負がその取りに透けて見えた。
だが、磨きげられたガラス戸を押しけて入ってきたのは、ランチの客ではなかった。
ダークグレーのパンツスーツを隙なく着こなした、髪の女性。 その背には、類鞄をにしたの男性が、表を切崩さずに控えていた。
徹で、理な線が、内を瞬で射抜く。 女性――黒田真理は、迎える玲奈の笑顔を瞥することもなく、その胸元の刺繍に目を留めた。
わずかに眉をかしただけで、黒田はい、よく通る声で告げた。
「株式会社エム・フーズの黒田です。代表取締役の浩司様はいらっしゃいますか」
名刺を差しすでもなく、黒田は淡々と用件を切りした。 その異様な威圧に、玲奈の笑顔がピキリと凍りつく。
「あ、あの……取材か何かでしょうか? 広報の担当でしたら、私が……」
「あなたではなく、代表取締役の浩司様です」
黒田の声は、玲奈を完全に遮断していた。 まるで、そこにしないを扱うような、事務で平坦な響き。
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厨ので腕を組んでいた浩司が、怪訝そうに眉をひそめて歩みてきた。
「私ですが。……エム・フーズ? 聞いたことがないな。び込みの営業なら、はお断りしているんだが」
浩司は顎をしゃくり、いかにも忙しい料理といったで追い払おうとした。
黒田はじなかった。 背に控えていた男性のが、革の鞄から束の分いクリアファイルを取りし、客席のテーブルのに置いた。
パサリ、とい音が内に落ちる。
「営業ではありません。昨付で締結されました、株式譲渡契約および経営権の移転に伴う、現調査および業務引き継ぎに参りました」
黒田の言葉に、浩司の顔からわずかに余裕が消えた。
「……は? 株式譲渡……? 何を言っているんだ」
「株式会社瀬企画の発済株式総数、千株。そのすべてを保されていた美緒様より、弊社が全株式を正式に買い取り、代の決済を昨完いたしました」
黒田は淡々と、しかし内の全員に聞こえる確な声で続けた。
「これにより、株式会社瀬企画は弊社の完全子会社となりました。本より、経営体制への移を始します」
瞬の静寂。
換気扇の回るい音だけが、気に響いていた。
玲奈が、ぽかんとをけたままち尽くしている。 エプロンのポケットに突っ込まれたが、微かに震えていた。
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「待って……」
玲奈の声が擦った。
「株式……? 子会社……? どういうことですか?」
玲奈は信じられないものを見る目で、隣につ浩司の顔を見げた。
「浩司さん……? この、浩司さんのものじゃないの?」
浩司の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。 赤みを帯びていた肌が、見る見るうちに気へと変わっていく。
「な……何を馬鹿なことを言ってるんだ!」
浩司は裏返った声を張りげ、テーブルのの類に掴みかかった。
「瀬亭は俺のだ! 親父の代から続く、のだぞ! 美緒はただの嫁で、俺の戸籍に入っていただけの女だ! あいつが勝にを売れるわけがないだろうが!」
黒田は眉つかさず、浩司の声をややかに受け流した。
「浩司様。論ではなく、法な権利関係のお話をしています」
黒田の図で、もうのスーツの男性――司法士が、ファイルをめくり、枚の面を指し示した。
「現、この舗の産賃貸借契約、厨設備、および従業員の雇用契約はすべて『株式会社瀬企画』が保しています。そして、その会社の株主名簿をご覧ください」
類の最段に印字された文字。
『株主名:美緒 所株式数:2,000株(持分比率:100%)』
「設の資本を資されたのは美緒様単独です。あなた様は、美緒様から経営を委任されていた『代表取締役』に過ぎません。
会社法、事業の譲渡や株式の売却において、代表取締役の同はです。