"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第3話
彼の名は宮連。普段は勢のに囲まれ、些細な会話さえ慎に選ばなければならない活を送っていた。
誰かがづけば、そのは何を求めているのかと周囲が先回りして判断する。善の言葉でさえ、や利益と切りして受け取ることは難しかった。
そんな連にとって、目のの女性は奇妙なだった。わずかなを返すためだけに見らぬ男をの夜に引き止めている。彼女には彼が何者なのかしも興がないようだった。
連は何度も名を尋ねられてきたし、名を告げた途端に会話が変わる経験もしてきた。仕事の相談を持ちかける者、紹介を頼む者、親しげな笑顔の裏で何かを期待している者。
もちろん誰もがそうではないと分かっていたが、相の言葉をそのまま受け取ることは々難しくなっていた。の匂いが漂うスーパーの軒先で、目のの女性だけは彼の位にづこうとしない。
むしろ自分が受けた親切の代をどう返すか、それだけに困っている。その器用な真面目さに触れると、連は久しぶりに肩を持たないただのの男として話している気持ちになった。
「名もらない相に連絡先を渡して、丈夫なのか」
わず尋ねると、咲は瞬だけ言葉に詰まったがすぐに答えた。
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「本当なら気を付けるべきだといます。でもあなたは私の買い物代をて替えてくれました。だったら私は、その親切を信じたで返したいんです」
謝と警戒を同に持ちながら、それでも自分の責任を果たそうとしている。連が何も答えないため、咲はし気まずそうにした。
「すみません、引でしたね。お忙しいなら振り込み先だけでも構いません」
その言葉を聞いて、連の胸にさな迷いがまれた。座番号を教えれば話は簡単に終わるし、代理の者に受け取らせることもできる。彼の常ではそれが最も理な方法だった。
ところがなぜか今夜は、その理性に従いたくなかった。真っ直ぐに見げてくる瞳から、すぐにれてしまうことが惜しかったのである。
「、はあるか?」
連が尋ねると咲はまた驚いたように瞬きをした。午ならしだけがあると答えると、連はさく頷いた。
「では10でいい」
あまりにも簡潔な返事に、咲はわずどこへけばいいのか聞き返した。連は着の内ポケットからさな帳を取りし、を1枚切り取って所をき始める。
その付きには、普段からな類を扱っている者らしい正確さがあった。
にはの部にある所と10という刻が記されていた。最に連は自分の名を添えた。
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に所をき終えるまでの、連は翌朝の予定をので組み直していた。午には役員会議があり、そのに財務部からの報告も受けることになっている。
それでも10のいなら調できるはずだった。秘に任せれば済む返済を、なぜ自分で受け取るのか。問い直せば理な答えはてこない。
ただ、昨夜限りで終わってしまうとっていた会いに、もうつだけ続きがまれる。それを楽しみにしている自分を、連は否定する気になれなかった。階の受付でこの名を伝えればいいと言う。
「宮連さんですね」
咲はを受け取り、丁寧な文字に目を落とした。名を聞いても彼女の表は変わらなかった。いつもなら名乗った瞬に相の声が変わることがいのに、咲はただ読み違いがないかを確かめただけだった。
「私は野咲と言います。の10ですね。絶対に遅れません」
咲は自分から名乗り、差しされたを財布にしまった。連は彼女の名を胸ので度繰り返した。野咲。どこにでもありそうな名なのに議とに残った。
無理に来る必はないと言いかけたが、その言葉は途でみ込んだ。そう言えばこの女性はきっと別の返済方法を探し続けるだろう。それほど彼女の差しは真剣だった。
が話しているうちにのはさらにくなっていた。スーパーのひさしから落ちるは細かなしぶきになり、にはのライトがく伸びている。