"レジで3860円を払ってくれた男は、巨大企業の会長だった" 第1話
「申し訳ございません。こちらのカードはお取り扱いできないようです」
員の声が聞こえた瞬、野咲は差ししかけたを止めた。午740分、駅のスーパーには仕事帰りの客が列を作り、ガラス扉の向こうではたいがり続いていた。
咲は端末に表示された赤い文字を見つめ、何かの違いだといながらもう度カードを差し込んだ。しかし械はい警告音を鳴らし、先ほどと同じ結果を示した。
「もう度お願いできますか」
できるだけ平静な声で頼んだが、自分の方がくなっていることをじていた。員は申し訳なさそうに操作を繰り返したものの、結果は変わらなかった。
昨まで当たりに使えていたカードが、どうして今に限って役にたないのだろう。咲は仕事帰りの鞄のみを肩にじながら、から届いていた連絡を見落としていなかったかい返した。
現では全帯の点検から写真の理まで気を抜かずにこなしてきたのに、レジのではたったつの決済を済ませることさえできない。その落差がけなかった。
員が声で別の支払い方法を尋ねると、咲は財布をいてを見せないように数え直した。何度確かめても、そこにある額が増えるはずはなかった。
ろに並んでいた男性が腕計を確認し、きなため息をつく。
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その音が妙にはっきり聞こえ、普段ならの線など気にしない咲も、このばかりは元のがしずつ狭くなっていくような居の悪さを覚えた。
買い物かごには米、卵、牛乳、豆腐、野菜、それにさな洗剤が入っていた。計額は3860円。決して価な買い物ではなかったが、今夜の咲にとっては必なものばかりだった。
3続いた現調査をようやく終え、蔵庫がほとんど空になっていることをいしてち寄ったのだ。財布には1000円札が1枚と数枚の貨しかない。現をく持ち歩かない習慣が裏目にていた。
急いで携帯話を取りし、の利用状況を確認しようとしたが、画面の隅には残りわずかな池を示す赤い印が浮かんでいた。通信が定なのか確認画面もかず、数秒には完全に暗くなってしまう。
充器を職の机に置いたままだったことをいし、彼女はさく息を吐いた。財布も話も頼りにならず、ろの列だけが伸びていく。これほど簡単な買い物に困るが来るとは像もしていなかった。
「現がりないなら、商品を戻してもらえる?」
ろから聞こえた女性の声には、りよりも疲労が滲んでいた。幼い子供を連れていたその女性もく帰宅したかったのだろう。咲は振り返り、くをげた。
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「すみません。すぐに片付けます」
員は商品を預かっておけると提案したが、咲は首を横に振った。いつ戻れるか分からない以、余計なをかけたくなかったのだ。震えそうになる指先を隠しながら、買い物袋を畳み始める。
内には焼きたての惣菜の匂いが漂い、では閉際の特売をらせる放送が流れていた。いつもなら気にも留めない音が、今は自分を急かす図に聞こえる。
咲は米だけでも持ち帰れないかと瞬考えたが、限られた現を何に使うか、い列ので選び直す気力はなかった。
背から聞こえる買い物かごの属音に肩が縮こまり、これ以誰かのを奪うに、商品をすべて返そうとを決めた。
「俺が払う」
背からく落ち着いた声がした。い言だったが、議なほど周囲のざわめきを押しのけて咲のに届いた。
振り向くと、濃紺の着を着た背のい男性がっていた。黒い髪はにし濡れ、った顔ちにはほとんど表がない。齢は代半ばだろうか。派な計もにつけておらず、には本の料だけを持っていた。
「いえ、丈夫です。らない方に払っていただくわけにはいきません」
咲は反射に断った。しかし男性は彼女を説得しようとも、困っている理由を尋ねようともしなかった。
ただ員へ線を向け、「このの分も緒にお願いします」