"五十七回の夜と、四十七枚の告発" 第5話
「ただの業務の付きいだ」「秘が荷物持ちで付いてきているだけだ」と私をした。
昨夜の写真についても、問い詰めればどうせ同じ言葉が返ってくるはずだった。「彼女ので打ちわせが引き、終を逃してソファを借りただけだ。やましいことなど何もない」と。
だが、それはもう回目だったのだ。
ベッドに横たわったまま、い掛け布団を顎のラインまで引きげ、私は自分の愚かさにさく自嘲の笑みを漏らした。
突然裏切られて呆然としている愚か者ではない。いをかけてしずつ麻痺し、自らんで愚か者の仮面を被り続け、鏡のの変わり果てた自分にようやく絶望した、救いようのないだった。
私はをよじって壁の方を向き、横向きに丸くなった。壁の継ぎ目が湿気で浮きがっていたので、差し指の爪を引っ掛けて擦ると、乾いた片がパラパラとシーツのに落ちた。
壁のからは、無質でのセメントのが顔をした。指先で触れると、ザラザラとしたい触が皮膚にたく伝わってきた。
固く目を閉じたが、識は冴え渡るばかりで眠気は向に訪れなかった。閉じた瞼の裏側には、朝に貼り付けてきた枚の張りの景が、鮮に焼き付いてれなかった。
今頃、あのはどうなっているだろうか。
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朝のいに煽られて吹きんでしまっただろうか。それとも通りを掃除していたあの老が、ゴミとして剥ぎ取ってしまっただろうか。
健はすでにあの文字を見ただろうか。見たとしたら、彼は何をっているのだろう。「またがヒステリーを起こして、面倒な真似をしている」と吐き捨てているに違いない。
過の来事が、記憶の底から次々と蘇ってきた。彼が初めて泊した夜、私は夜通し話をかけ続けて受話器を握りしめて泣き、翌朝帰宅した彼は「悪かった、もう度としない」と私を抱きしめた。
回目の泊のとき、健は話にず、私は震える指で秘の携帯番号を押した。彼女は涼しげな声で「お姉さん、誤解しないでくださいね、本当にお仕事の類を理していただけですから」と答えた。
回目の夜、私はリビングのかりをつけたまま、玄関のドアノブを見つめて朝まで座り続けた。健は朝帰りし、疲れ果てた私の顔を見るなり「どうしてまだ寝てないんだ、気が悪い」と言い放った。
回目からは、私は彼を待つふりをして寝に入り、暗ので井を見つめて過ごした。回目を越えたあたりから、私はのでカレンダーに印をつけるように、回数を数え始めた。
回目を数えた夜も、私はまだどこかで耐えようとしていた。
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しかし回目を迎えた昨夜、私のので張り詰めていた最の糸が、音をてて断ち切れたのだ。
私は仰向けになり、再び井の細い亀裂を見つめた。バッグのの携帯話は沈黙を守っている。今が午何なのかも分からなかった。
窓のを塞ぐレンガの壁のせいで、太陽のが部のに差し込んでくることはなく、暗い部の空気は淀んだままだった。
私は体を起こし、ベッドからりてバッグの底を探った。指先に触れたのは、のの布で装丁された冊の帳だった。
使い込んできたため、布の隅は擦り切れて毛羽ち、垢で黒ずんでいた。表をくと、最初の頁目には、私が独自に発した「梅シロップの牛肉煮込み」のレシピが記されていた。
それは、加亭の業当初からを支え続けてきた、絶対な板メニューの設計図だった。に万でいた文字はインクが青からへと褪せていたが、分量や加減の指示は鮮に読み取れた。
私はその文字の並びを指先でなぞり、そっと帳を閉じると、枕のの隙へと滑り込ませた。
その、部のの暗い共用廊から、激しい音が響いてきた。ゆっくりとした取りではない。鉄製の階段を段ばしで駆けがってくる、荒々しい音だった。
ドスドスという振がを伝わり、音は私の部のドアの真正面でピタリと止まった。