"結婚3週間前、私のマンションを「弟に10%譲れ」と言った婚約者" 第13話
「こう、里奈」父がちがり、私に声をかけた。「ここに、と呼べる相はもいない」
私たちが部をようとしたその、背から狂乱した音が迫ってきた。「リナ! 待ってくれ、リナ!」
廊にびしてきた匠が、私の腕を掴もうとを伸ばしてきた。私は半歩引いてそのを完全に躱し、氷のような線で男を射すくめた。匠のネクタイは歪み、髪は乱れ、かつて頼れる婚約者として振るっていたはどこにもなかった。ただの、保と恐怖に震えるれな敗残者だった。
「リナ……頼む、考え直してくれ! 俺が悪かった、全部俺の浅恵だった! でも、俺がおをしていたのは本当だ! 4、緒に過ごした々は嘘じゃなかっただろ!? たった10%のことで……たった度の違いで、俺たちの4を捨てる気か!?」
涙を浮かべて願する男の姿を見つめながら、私のには微の波もたなかった。4という歳を、自らの見栄と80万円の回収のために秤にかけ、裏切ったのは誰だったのか。この男は最まで、自分の犯した罪のさを理解していなかった。
私はさく息を吸い込み、澄み切った声で、引導を渡した。
「あなたが差ししたのは10%でも、失った信用は100%よ」
匠が息を呑み、絶望に見かれた瞳のまま直した。私は度と振り返ることなく、父と共に静かに廊を歩きした。
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背で、崩れ落ちるようない音が響いていた。
料亭のいをくぐり抜けると、の始まりを告げるたいが、照った頬を容赦なく撫でげた。 背で繰り広げられていた罵声と取っ組みいの気配は、玉砂利を踏む私たちの音のに、静かに掻き消されていく。
「里奈、丈夫か」 並んで歩く父が、正面を見据えたままく問いかけてきた。吐きす息がかすかにい。 「ええ。ちっとも傷ついてないわ。ただ……あまりにも浅ましくて、吐き気がしただけ」 「そうだな。だが、これで奴らの目論見は完全に潰えた。あとは歩も隙を見せず、事務に刈り取るだけだ」 父の横顔には、娘のの領域を守り抜いた男の、揺るぎない覚悟が刻まれていた。私たちは駅のロータリーでく言葉を交わし、それぞれの常へと戻った。
翌の曜、私は朝番で休暇を取得し、以から配していた鍵の交換業者を自宅に呼んだ。 玄関のドアノブからシリンダーがされ、指紋認証と暗証番号でしか閉できない最型のスマートロックが取り付けられていく。属が擦れう無質な作業音を聞きながら、私は胸の奥にあった最の違が消えていくのをじていた。
匠に渡していた鍵は、もうただの屑鉄だった。この扉の内側は、誰の許もなく、誰の顔を窺うこともなく、私だけが呼吸できる絶対なだ。
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業者が帰った、私はリビングに残された匠の荷物を、無で段ボール箱へ詰め始めた。 クローゼットに残された季節れのコート、斎の本棚に並んでいたビジネス、洗面所に置かれたままの髪料。つひとつをに取り、械なつきで底に敷き詰めていく。懐かしさも、傷も、切湧いてこなかった。かつて着をじていたはずの品々は、私の資産に寄しようとした男の抜け殻に過ぎない。
箱にまとめた荷物は、ガムテープで厳に封印した。 私は配送業者を配し、匠の実宛てに着払いの伝票を切った。直接顔をわせる会など、秒たりとも与えるつもりはない。
午になると、の窓へ向かった。 の結婚準備として、私の名義で設していた定期積座を解約するためだ。匠が毎振り込んできた額を、通帳の履歴から円単位まで正確に割りす。式のキャンセル料や共同活の活費といった名目で相殺することは、あえてしなかった。
「解約を、こちらの座へ全額送してください」 提示したのは、匠の個座だった。 わずかな貸し借りすら残さない。から「あのはどうなった」「当利得だ」と絡んでくる実を、根こそぎ焼き払うための措置だった。
続きを終えて渡された、穴のいた通帳の束をバッグに収め、私はスマートフォンを取りした。