"サンダル履きの妻を、夫が売る日" 第5話
全てを暗号化されたUSBメモリへと保する。
になって夫を問い詰めるのは、愚か者のすることだ。
今ここで騒げば、データは消され、「単なる参考資料の取り違えだ」と言い逃れされるに決まっている。
奴らが最も自信に満ち溢れ、私を完全に無力化したと確信した瞬。
その瞬に、自らが仕掛けた罠のさに絶望させてやる。
私はパソコンを静かに閉じ、ベッドへと入った。
りはすでに消え失せ、のは翌朝からの順で研ぎ澄まされていた。
曜の朝、午分。
私はいつも通りのネイビーのジャケットにを包み、胸に主任の社員証をげてオフィスへ社した。
フロアの空気は、末特の慌ただしさに包まれている。
「おはようございます、藤原主任」
輩の森田由佳が、類の束を抱えて駆け寄ってきた。
「おはよう、森田さん。週末の納品データ、修正しておいたわよ。基幹システムに反映させてあるから」
「ありがとうございます! 本当に助かりました……あ、主任、聞きましたか? 今、営業部にしい管理職のが来るって噂なんですけど」
森田が周囲を気にしながら、声を潜めて打ちしてくる。
「岸本部がすごく張り切ってて。京のから優秀な女性を引き抜いたから、うちの臭い物流体制も気に代化するんだ、とか朝からフロアで吹聴してるんですよ」
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「そう。楽しみね」
私は穏やかに微笑み、自分のデスクのパソコンをちげた。
定刻の午。
オフィスの自ドアがき、岸本部がこれ見よがしに胸を張って入ってきた。
そのろに続いているのは――
仕ての良いライトグレーのパンツスーツにを包み、完璧に巻かれた髪を揺らして歩く、理だった。
曜の堂で見せた傲な笑みを張り付かせ、フロアの社員たちを見ろすように見回している。
「皆さん、しを止めてくれ!」
岸本部がを叩き、フロアの央で声を張りげた。
「が営業部のさらなる躍のために、本、特別顧問兼マネジメント候補として理さんをお招きした! 京の流商社で数々の規模プロジェクトを成功させてきた、まさに流通改革のエキスパートだ。本から数、が部の業務フローと顧客管理体制を察してもらい、正式な組織再編をう!」
パチパチと、まばらな拍が起きる。
社員たちの顔には、突然現れた派な部のに対する警戒が骨に浮かんでいた。
理が歩へて、艶やかな声で挨拶を始める。
「ご紹介に預かりました、理です。方の古い商習慣に囚われた現には、びしびしとしいを吹き込んでいきたいとっています。効率の悪いやり方を続けている方、自分のやり方に固執しているベテランの方には、し厳しい指導になるかもしれませんが、会社のためですから悪しからず」
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その線が、フロアの隅にある私のデスクへと向けられた。
曜にサンダル履きでうどんをすすっていた女が、オフィスのデスクに座っている。
瞬、の眉がピクリとねた。
だが、私の胸にあるネイビーのジャケットと、控えめな佇まいを見るなり、すぐに嘲笑のを取り戻した。
彼女のでは、私はまだ「休に会社のくをうろついていた、みすぼらしい平社員の」のままなのだ。
挨拶が終わり、社員たちが席に戻ると、岸本部が招きで私を呼びつけた。
「藤原くん、ちょっといいかね」
部席へ向かう。
そこには、くも来客用の革張りソファーに々と腰掛け、を組んでいる理の姿があった。
「部、お呼びでしょうか」
岸本は、デスクのの分いファイルをトントンと叩きながら、尊な態度で私を見げた。
「藤原くん、君には、スーパーや品卸の窓を担当してもらってきたがね。そろそろ君の力では、これ以の売拡は望めないだろう」
「……と、仰いますと?」
「組織の若返りだよ」
岸本は平然と言い放った。
「さんは、京仕込みの洗練されたプレゼンスキルと脈を持っている。そこでだ、君が現担当している『主取引先位社』のアカウント、ならびに特産品ギフトの仕入れルートの全報を、さんに引き継いでもらいたい」