"妻を平手打ちした夫が、30分後「娘には言うな」と懇願した" 第17話
暴力も。保のための嘘も。この男ののでは、何つ自分の責任になっていなかった。すべては「反抗した妻」のせいなのだ。
私は何も言わず、ややかにその罵声を聞き続けた。沈黙に苛ったのか、浩の声はさらにく、湿に歪んでいく。
『おい、美紀! 聞いてるのか! おは連れ添った夫を破滅させて、に迷わせて……それで今、満なのか?! ええ?! 言ってみろよ! おはこれで満なのかって聞いてるんだよ!!』
受話器の向こうで、何かが激しく面に叩きつけられる鈍い音が響いた。酒の空き瓶でも割ったのだろう。狂乱する男の喚き声が、夜のに霊している。
私はく、静かに息を吸い込んだ。
目のに置かれた『婚協議』の表に指を添える。そして、何の躊躇もなく、静かにそのファイルをパタンと閉じた。
乾いたのなる音が、部の静寂のに、さく、だが決定に響いた。
「満か、ですって?」
受話器の向こうの荒い息遣いに向けて、私は静かに言葉を返した。鳴るでもなく、嘲笑うでもない。ただを完全に奪いった平の声。
「私が望んだのは、暴力を振るわれないこと。そして、嘘で塗り固められた関係から抜けすことだけです。あなたが会社でどのような処分を受けようと、それはあなたが部と貞をね、公の席で妻を殴打した結果です。
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私のせいではありません」
『美紀……! 頼むから、度会ってくれ! 頼む、に戻ってきてくれ! おがいなきゃ、俺は……!』
「度と私に直接連絡しないでください」
私は赤い通話終ボタンを押した。直子が即座に私のスマートフォンを受け取り、浩の話番号とメールアドレスを着信拒否に放り込む。
ツーツーという乾いた子音すら残らない無音の部で、私はく息を吸い込んだ。胸の奥をく押し潰していた鉛のような塊が、わずかに軽くなった気がした。
だが、これで終わりではない。の刃を交わす段階は終わった。ここから先は、制度と片がすべてを決める、徹な清算のだった。
週。晩のえ切ったが、法律事務所の窓ガラスを細かく叩いていた。
会議の細いテーブルを挟んで、私と栗原弁護士が腰をろしている。私の隣には、仕事を半休んで駆けつけてくれた結の姿があった。結は背筋をピンと伸ばし、喪をわせる濃紺のスーツを着て、点を見つめていた。
扉がノックされ、事務員に案内されての物が入ってきた。
先にっていたのは、見違えるほど痩せこけた浩だった。いつも仕ての良さを誇っていたスーツの肩にはフケが落ち、首回りの肉が落ちたせいでワイシャツの襟元が格好に余っている。
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無精髭が顎を覆い、血った目は怯えた物のように泳いでいた。
そして、その背に張り付くようにして部に滑り込んできたのが――義母の芳だった。
「浩、しっかりなさい!」
入するなり、芳は甲い声で部の空気を切り裂いた。級な綸子の羽織を着込んではいるものの、髪交じりのえ際を隠しきれず、顔全体に刻まれた皺が異様な険しさを帯びている。
「美紀さん! あなた、こんなな真似をして、先祖に顔向けができるとっているの?! 浩がどれだけ苦しんでいるか見て分からないの! も佐藤の飯をわせてもらっておきながら、ちょっと夫がをしたくらいで弁護士をてて! 恥をりなさい、恥を!」
芳がを乗りし、デスクに両を叩きつけようとしたその瞬、栗原弁護士がちがった。類を束ねるパチンという乾いた音が、内に響く。
「佐藤芳様ですね」栗原弁護士の声は、氷のように鋭く、切のを交えていなかった。
「本の協議は、佐藤浩氏と佐藤美紀氏のの婚姻関係解消に関するものです。成同士の法な権利義務の理のであり、親族であっても第者の同席は認められません。また、先ほどから繰り返されている威圧な発言は、民事のおよび恐未遂に抵触する恐れがあります」
「な、なんですって?! 私は浩の母親ですよ! 息子の庭の問題にをして何が悪いんですか!」