"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第16話
ろうとしなかっただけです。あるいは、っていながら『万円の費すら惜しい』『続きが面倒だ』という理由で、番文句を言わなさそうな男の嫁を無料の労働力として使おうとした。……違いますか?」
沈黙。
苦しい静寂が、埃っぽいリビングを支配した。義母は膝ので固く握りしめた拳を震わせ、唇を噛み締めている。夫は壁際に寄りかかり、ただの目を凝していた。
「……計算いわね」
く、毒を含んだ声で吐き捨てたのは、義姉だった。
義姉は腕を組み、え切った目で私を睨みつけていた。
「族ので、の数がどうだの、がどうだの……本当におのことばかり。族なんだから、しはお互い様って気持ちがないわけ? そんなに計算くきてて、恥ずかしくないの?」
「お互い様、ですか」
私は乾いた笑いをつこぼした。
「お互い様という言葉は、双方が支えっているときに使うものです。私が方にとキャリアを差しし、あなたたちは何も差しさない。これを世では『搾取』と呼びます」
「なっ……!」
「民法、親の扶養義務を負う第順位は実の子です。修さんと、美智子さん、あなた方です。息の詰まるような理屈を並べて嫁に押し付けるに、まず実の子供であるあなたたちがを取り、幹線代を払い、自分のとを使って親の面倒を見なさい」
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私の言葉は、切のの揺らぎを含んでいなかった。ただの事実。ただの法律。そして、絶対に崩れることのない現実の鉄壁。
義姉はりで顔を真っ赤にし、何か反論しようとをきかけたが、喉の奥で息を詰まらせた。どんなに屁理屈を捏ねようと、実の子としての義務から逃げられるは、もはやどこにも残されていなかった。
そのだった。
ずっと押し黙っていた義母が、突如として肩を震わせ、両で顔を覆った。
「うっ……ううっ……」
指の隙から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。今度は演技ではない、プライドを完全に打ち砕かれたの、剥きしの悔し涙だった。
「真由美さん……酷いわ。あんまりだわ……」
義母は顔をげ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を凝した。その瞳には、私を従順な嫁の座に引き戻すための、最の切り札が握られていた。
「私はね……あなたを本当の娘だとっていたのよ!」
痛な叫びだった。
「実の娘の美智子と同じように……いいえ、それ以に頼りにして、本当の娘だとって切にしてきたつもりだったの! それなのに……あなたにとっては、私はただの赤のだったのね! そんなに私が邪魔だったの!? あんまりじゃないの!」
「母さん……」
夫が耐えかねたようにを乗りし、義母の肩にを置こうとした。部のに、苦しい罪悪のがち込める。
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『本当の娘だとっていた』。
本の庭で、義母が嫁を支配し、無償の犠牲をいるときに使う、最も狡猾で、最も残酷な呪いの言葉。「族」という美しいベールで相を絡め取り、個の尊厳を絞め殺す毒薬。
の結婚活ので、もし数の私なら、この言葉に胸を痛めていたかもしれない。「私の配慮がりなかったのだろうか」「もっと優しくしてあげるべきだったのか」と、自分を責めていたかもしれない。
だが、今の私のには、さざ波つたなかった。
私はく、静かに息を吸い込んだ。そして、泣きじゃくる義母の目を、まっすぐに、徹に見つめ返した。
「お義母さん」
私の声は、驚くほど静かに、けれど部の隅々まで凛と響き渡った。
「もし、本当に私のことを実の娘だとってくださっていたのなら――」
呼吸の。
「どうして、その娘のを、切にしてくださらなかったのですか?」
義母の泣き声が、ピタリと止まった。
目を見いたまま、義母の呼吸が止まる。
「美智子さんの仕事や庭は切だからと配慮し、私の仕事は『誰でも代わりがいる事務員』だと見した。親戚ので逃げを塞ぎ、積みげてきた正社員のキャリアを奪おうとした。……実の娘に対して、そんな残酷な真似をする母親が、この世のどこにいるのですか?」
義母の唇が、乾いた音をてて刻みに震えた。
反論の言葉は、言もてこなかった。
「娘だとっていた」