"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第15話
「、です。お待ちしています」
私は通話を切り、夫にスマートフォンを投げ返した。夫はソファーの隅でさく丸まり、ただ息を殺していた。
夜がけても、の気は緩まなかった。
曜の午分。私と夫は、義母がで暮らす造階建ての戸建て宅の玄関先にっていた。入れのき届いていない庭が、乾いたに揺れている。
夫が鍵をけ、へ入る。廊には、の効いていない古い特の、湿った気が淀んでいた。
リビングの引き戸をけると、義母がこたつに入って座っていた。テーブルのには湯呑みがつ。料亭での派な着物姿とは打って変わり、な鶯のカーディガンを羽織り、いかにも「労でやつれた被害者」の体裁をえていた。
「……来たの」
義母は掠れた声でそう呟き、私からすっと目をそらした。
その分、荒々しく玄関のドアがく音が響いた。ドカドカと乱暴な音をててリビングに入ってきた義姉は、毛皮の襟巻きをしながら、鬼のような形相で私を睨みつけた。
「幹線、自由席でちっぱなしだったわよ! わざわざ隣町から呼びつけて、体何のつもり!?」
誰も座ろうとしない。部の空気が、張り詰めた氷のように直している。
私は誰にも促されることなく、こたつの端、義母と義姉と夫の線が交差する位置に正座した。
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そして、持参したビジネスバッグから、昨夜夫に見せたあの茶封筒を取りした。
「単刀直入にお話しします」
封筒から、つのクリップで留められた類の束を引きす。それを、こたつ机のに枚ずつ、音をてて並べた。
「これは、過に私が会社の休暇を取得した全記録です。計。そのうち、お義母さんの病院への付き添い、検査のちい、急な呼びしによる買いしで消費した数は、でした」
義母の線が、机のの類に吸い寄せられる。
「次に、こちらのグラフをご覧ください。同じ過における、実の子である修さんと美智子さんの病院付き添い実績です。修さんが回、美智子さんはゼロです」
義姉が眉を吊りげ、甲い声で叫んだ。
「だから何よ! 過の恩着せがましい愚痴を言いに来たわけ!? あんたが勝に親切でやってたことでしょう!」
「勝ではありません」
私は義姉の目を、瞬きもせずに見据えた。
「『今かないと薬が切れる』『が痛くて歩けない』と、平の昼に私の職へ何度も話をかけてきたのはお義母様です。修さんも美智子さんも『仕事でけないから頼む』と私に丸投げした。私はその度に周囲の同僚にをげ、業務を調して駆けつけてきました。それを『勝にやった』の言で片付けるのは、あまりにも誠実です」
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「真由美さん……!」
義母がハンカチで元を押さえ、震える声で遮ろうとする。
「私を責める気なの? が痛くて、細くて、頼れるがあなたしかいなかったから……」
「頼れるが私しかいなかった、というのは完全な事実誤認です」
私は枚目の類――役所の域包括支援センターで作成してもらった介護保険の試算表を、義母の目のへ滑らせた。
「昨、の域包括支援センターで相談してきました。お義母様の現の体状況であれば、支援認定がりる能性が極めてく、介護保険を使えば、週〜回のデイサービス、ホームヘルパーによる買いしや掃除、通院の送迎支援を公に受けることができます」
「……は?」
義姉がぽかんとをけた。
「費用は、お義母様の受額から見ても、自己負担割の範囲内で額万円に収まります。料老ホームに入って全財産を失うこともなければ、誰かが仕事を辞めて無で拘束される必もありません」
義母の顔から、わざとらしい壮がサーッと引いていった。代わりに浮かびがったのは、見らぬに財布のを暴かれたかのような、々しい狼狽だった。
「な、何よそれ……らないわよ、そんなの……」
「らないはずがありません」
私は元のペンで、試算表の端をトントンと叩いた。
「歳以の齢者がいる世帯には、自治体から介護保険に関する案内が定期に届いています。