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"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第6話

このまま靴を履き、コートを羽織って、赤坂の通りへびせばいい。仲居さんが渡してくれたメモの通りに、『逃げて』しまえばいい。

だが、もし今ここで私が背を向けてちれば、どうなるか。広の扉の向こうで、義母と義姉と夫は、親戚同に向かって私の悪を並べてるだろう。「真由美さんはお母さんの面倒を見るのが嫌で、正に逃げしたな嫁だ」と。私がいない所で、私の罪が確定し、族の歴史として語り継がれていく。

……冗談じゃない。悪者にされてたまるか。

逃げさない。彼らが用した台に、真っ正面から踏み込んでやる。逃げを塞いだつもりの檻の鍵を、から叩き壊してやる。

私は背筋を伸ばし、く息を吐きすと、義姉と夫の背を追って歩きした。

『松の』のきな襖のにったとき、からは親戚たちの楽しげな談笑の声が漏れていた。だが、義姉が乱暴に襖をけ放った瞬、そのがを打ったように静まり返った。

「お母さん! 聞いてちょうだい!」

義姉の切り声が、部の空気を切り裂く。

広には、ほどの親戚が座卓を囲んでいた。座には、嫌そうに酒杯を持つ本の伯父夫婦。義父がくなって以来、の気取りで親族を仕切っている物だ。その隣には、従兄弟夫婦や叔母たちの姿もある。

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そして、その央に座っていたのが、義母の子だった。

義母は義姉の剣幕に驚いたような顔をし、続いて部の入りにつ私の姿を認めた。その瞬、義母の表が劇に変化した。

眉をの字にげ、唇を震わせ、今にも泣きしそうな「かい老母」の顔を作りげたのだ。

「美智子ちゃん……どうしたの、きな声を席でして……」

「どうしたのも何もないわよ! 真由美さんにからの計画表を見せたら、『お断りします』って突き返されたのよ! お母さんの面倒なんて見ない、仕事も辞めないって、廊で鳴られたの!」

広の空気が、気に凍りついた。

親戚たちの線が、斉に私へと突き刺さる。非難、軽蔑、侮蔑。「正々、なんて嫁だ」という無言の同調圧力が、苦しい空気となって部を満たしていく。

「真由美さん……」

義母が元のハンカチを目元に当て、震える声をした。

「そんな……私の面倒を見るのが、そんなに嫌だったの? 私はただ、最腰がくなって、病院にくのも細くて……族にしだけ助けてほしかっただけなのに……」

嗚咽交じりの声。涙など滴も零れていないのに、肩をさく震わせてみせるその仕は、完璧な被害者の演技だった。

「いつも優しく付き添ってくれていたから、私はてっきり、あなたのことも本当の娘のようにっていたのよ。

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それなのに……私の体がかなくなったら、急にのひらを返すなんて……」

「そうよ!」

義姉がすかさず油を注ぐ。

「男の嫁としての自覚がなさすぎるわ! お母さんがここまで頼んでいるのに、仕事を理由に突っぱねるなんて! 修の稼ぎがあるのに、正社員にしがみつく必がどこにあるのよ!?」

座卓の端で、親戚の叔母たちが眉をひそめて囁きっているのが見えた。「まあ、あんなにしそうなだったのに」「お母さんがかわいそうねえ」「嫁の分際で、親戚の集まりで波をてるなんて」

そのたい線を受け止めながら、私のは議なほど静まり返っていた。りで震えていた指先が、すっとえていく。脳内が、氷のように研ぎ澄まされていくのがわかった。

これが、このたちのやり方だ。勢に無勢の空気を作り、世体の鎖で相を縛りげ、「私がすれば丸く収まる」という理に追い込む。、私が何度もみ込んできた罠。

だが、もう度とまない。

私は部の敷居を跨ぎ、畳のに静かに正座した。乱暴に座るのではなく、背筋を真っ直ぐに伸ばし、居まいを正す。

「皆様、の宴席でお騒がせして申し訳ありません」

私のよく通る声が、広に響いた。を交えず、職でな報告をするときと同じ、く落ち着いたトーンを保つ。

「誤解があるようですので、私のから正確な事実を申しげます」

義姉が「誤解なんてないでしょう!」とを挟もうとしたが、私は線をさず、で制した。

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