"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第5話
訪問着の袖を品にえながら、まるで部の企画を褒める司のような調で言い放つ。
「私、わざわざパソコンで打って印刷してきたのよ。お母さんの通院先も全部リストアップしてあるし。これなら真由美さんも、何曜に何をすればいいか迷わなくて済むじゃない」
「……誰が、これを作ったの?」
「私に決まってるじゃない。誰かが旗を振ってあげなきゃ、いつまで経っても何も決まらないでしょう? 修は頼りないし、お母さんの腰はどんどん悪くなるし」
「なぜ、私の名しか入っていないの?」
私の問いに、義姉は底から解だというように眉を寄せた。
「なぜって……さっき修からも聞いたでしょう? 私には私の活があるのよ。隣町から片以かけて通うなんて現実じゃないわ。修だって、の黒柱として営業の仕事を抜けるわけにはいかないの」
「私も働いています」
奥歯を噛み締め、言葉をく絞りした。
「私も、医療法の事務としてフルタイムで働いています。今で勤続になります。あなたたちと同じように、毎朝決まったに勤して、責任を持って仕事をしているんです」
「だから」
義姉がでさく笑った。その嘲るような響きに、の奥がカッとくなる。
「事務の仕事なんて、誰でも代わりがいるじゃない。
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パートに切り替えてもらえば済む話でしょう? の融通だって利くはずよ。お母さんの介護という崇な役目があるんだから、職だって理解してくれるわよ」
代わりがいる。誰でもできる。その言葉が、私のをで踏みにじっていく。
を卒業する娘の教育費をしでも補うため。将来の自分たちの活を支えるため。休暇のを面するのすら、周囲の同僚にをげて、末の請求処理を夜遅くまで残業して終わらせてきた。義母が「膝が痛くて湿布が貼れない」「病院の予約番号がわからない」と言いすたび、昼休みに話をかけ、仕事をやりくりして駆けつけていたのは誰だったのか。
その積みねを、このたちは「の融通が利く誰でもいい仕事」と切り捨てているのだ。
「事務の仕事なら融通が利く?……ふざけないで」
「なっ……何よ、その言い!」
「お断りします」
私は元のをきっちりとつに折り、義姉の胸元へと突き返した。
「私の働き方も、私の活も、あなたたちに差しすつもりはありません。この計画表は、受け取れません」
義姉の顔から笑みが消え失せた。を引いた唇がわなわなと震え、見事な化粧を施した顔がみるみるうちに赤黒く染まっていく。
「何言ってるの……? 断るって、どういうことよ! そんな勝なこと言って、お母さんがかわいそうじゃない!」
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甲い鳴のような声が、静かな料亭の廊に響き渡った。
「母さんがかわいそうだろ!?」
ろでおろおろとち尽くしていた夫が、焦ったようにを挟んできた。
「おい、真由美! 姉さんにそんな失礼なこと言うなよ! 族のためにわざわざ作ってくれたんじゃないか! 正々、そんな角のつ言い方するなよ!」
「失礼なのはどちらですか?」
私は夫をたく瞥した。その目に、かつてしたの面はどこにもなかった。ただ、自分の親族ので体面を取り繕うことしかにない、卑怯な同居がっているだけだった。
「私の承諾もなしに親戚に根回しをして、働き方を勝に決めて、逃げられないように広に連れ込もうとした。あなたたちがやっていることは、相談ではなく脅迫です」
「き、脅迫だなんて……聞きの悪い!」
義姉が胸元に突き戻された用を乱暴に奪い取った。そのがりで震えている。
「いいわ。そこまで言うなら、お母さんので直接言いなさいよ! 親戚のみんなので、自分ので『お母さんの面倒は見ません、見捨てます』って宣言してみなさい! 男の嫁がどんな顔で見られるか、いらせてやるわ!」
義姉はりに任せて踵を返すと、ドスドスと乱暴な音をてて廊の奥へと歩きした。
「あ、姉さん! 待ってくれよ!」
夫が慌ててを追おうとする。
その背に向かって、私は静かに息を吸い込んだ。
逃げるのは簡単だった。