"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第2話
……ご自ので、確かめられたほうがよろしいかとじます」
仲居さんは々と礼すると、に調理のほうへと消えていった。
残された私は、廊の気に晒されたままち尽くしていた。膝が微かに震えている。
親戚全員。堀を埋める。断れないようにする。
点と点が、恐ろしい速度で線になっていく。なぜ、普段はし渋る義母が、わざわざこんな級を予約したのか。なぜ、普段は私を召使いのように扱う義母が、あんなにも猫撫で声をし、「いつもありがとう」などと謝をにしたのか。
……全部、罠だったのか。
私は息を殺し、音を忍ばせて、廊の奥へと歩きした。料亭の奥まった角。『松の』とかれた札の掛かるきな襖のにつ。部のからは、複数の音と、器がぶつかる微かな音。そして、聞き慣れた甲い笑い声が漏れていた。
義姉、美智子の声だ。
「お母さん、本当にうまくいくの? あのが断ったらどうするのよ。『仕事が忙しい』とか何とか言って、逃げそうとするに決まってるじゃない」
襖の隙から漏れてくるその言葉に、私のはに縫い付けられた。
続いて、義母のややかな、けれど確信に満ちた声が響く。
「丈夫よ。今は本のおじさんたちも全員呼んであるんだから。親戚同ので『よろしくお願いします』ってをげられたら、あの真由美さんが断れるわけないでしょう? あのは世体を気にする性格なんだから」
広告
「それもそうね! 『男の嫁なんだから当たり』って空気を親戚全員で作っちゃえば、もうサインしたも同然よね。あーあ、これで私の肩の荷もりるわ。毎週毎週、隣町から病院の付き添いに通うなんて絶対に無理だもの」
「美智子ちゃんはいいのよ。実の娘だし、庭もあるんだから。真由美さんは事務員だし、の融通なんていくらでも利くでしょうに」
血の気が引くのが、自分でもわかった。の指先から、急速に温度が奪われていく。
義母の腰がり、通院の回数が増えているのはっていた。でも、義姉は「くにんでいるから無理」「仕事が忙しいから」と最初から逃げ腰で、ここ数の付き添いや続き、買い物は、すべて私が仕事のを縫ってこなしてきたのだ。
を使い、会社にをげ、庭のを削って。それを、今度は完全に私の固定業務にするつもりなのか?親戚同ので私を晒し者にして、逃げを塞いで、無理やり首を縦に振らせるために?
あまりの悍ましさに吐き気がこみげた、そのときだった。
襖の向こうから、さらにもうつの声が聞こえてきた。
「母さん、美智子姉さん。……真由美にはまだ何も話してないんだから、急に言わないでくれよ。入ってきていきなりそんなこと言われたら、あいつだってパニックになるだろ」
広告
聞き違うはずもない。さっきまで私の隣で、刺をつついていた男の声。
夫、修だった。
いつのに、こちらの部に来ていたのか。いや、そんなことはどうでもよかった。
(……修さん、あなた、ってたの?)
っていたどころではない。夫は、最初からこの悪巧みの輪のにいたのだ。私の隣で「何でもないよ」と々しく微笑みながら、裏では実の母親と姉と緒に、私を追い詰める段取りを確認していた。
「修、あんたがしっかりしなきゃ駄目じゃない」
義姉が苛たしげに舌打ちする。
「真由美さんに事に話したら、あれこれ理由をつけて今来なくなるかもしれないでしょ? だから今、こので気に決めちゃうの。あんたからも親戚のでビシッと言いなさいよ。『妻もんで母さんの面倒を見ます』って」
「わかってるよ。……でもさ、真由美だって正社員なんだし、急に仕事を辞めろとは言えないだろ」
夫の声には、私への庇いてなど微もなかった。ただ、自分が妻から責められたくないという保と、面倒ごとを避けたいという怯えだけ。
「辞めろなんて言ってないじゃない。パートに切り替えさせればいいのよ。週くらい午だけ働いて、午は母さんの通院と買い物。完璧なスケジュールじゃないの。ねえ、お母さん?」
「そうねえ。真由美さんも、男の嫁としての役目を果たせば親戚からも褒められるんだから、悪い話じゃないはずよ」