"「娘に頼まれたから」深夜に30個の弁当を作る母、私は何も知らなかった" 第13話
張り詰めていた糸がプツリと切れたように、私の膝から力が抜けた。畳のに座り込むと、母がそっと私の肩を抱いてくれた。
「……歩美」
「ごめんね、お母さん……私、あんな男と結婚して……お母さんにこんな酷いいをさせて……」
堪えていた涙が、私の目から溢れた。母を守るために張り詰めていたが、気に決壊して嗚咽に変わる。
母は何も言わず、ただ優しく私の背を撫で続けてくれた。そのはごつごつとく、湿布のツンとした匂いがをついた。
「謝らないで、歩美」
母の穏やかな声が、からってくる。
「あんたが気づいてくれなかったら、お母さん、自分の首が壊れるまであのたちに尽くして……最はポイって捨てられていたわ。あんたがってくれたから、お母さん、目を覚ませたのよ」
母は私の濡れた頬を、温かい指先でそっと拭ってくれた。
「お母さんね、嬉しかったのよ。あんたが私のために、あんなに必に戦ってくれたこと。……それだけで、この半の苦労なんて全部吹きんじゃったわ」
私たちは、暗い台所ので肩を寄せい、気が済むまで静かに泣いた。
そのの展は、驚くほど迅速で、そして事務だった。
翌週、弁護士を介して正式な内容証郵便が義実と夫の職に届いた。域の恥をこれ以晒したくない義母は、定期預を解約し、指定された期までに万千百円を全額、母の指定座へ振り込んできた。
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通帳に印字された数字を見た母は、ホッと息を吐きながら、「これはね、これからの私の通院費と、歩美との美しいご飯のために使うわ」と笑った。
夫の輔は、婚の条件を切争うことができなかった。貞こそないものの、妻の親族に対する詐欺為と経済搾取、そして額の隠し借。責配偶者としてのを突きつけられ、財産分与は放棄。マンションの退続きをで済ませ、実の義母の元へ転がり込んだと聞いた。
噂の広がりはかった。あけぼの区の交流会では、内の仕し業者が用した弁当が配られた。野田さんたち役員のによって、「藤本恵子さんが個な事で切の調理に関わっていなかったこと」「管理の虚偽があったこと」が、町内会の幹部会で正式に報告されたのだ。
義母は婦会を辞任させられただけでなく、あれほどに通っていた域のサークル活にも、度と顔をせなくなった。所のスーパーで義母を見かけたという母のによれば、以の派なはを潜め、子を目に被って、目を避けるようにそそくさと買い物を済ませていたという。の労働を搾取してに入れた偽りの名声は、剥がれ落ちた瞬に、ただの孤という荷になってね返ったのだ。
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そして、季節が巡った。
の初め。のたいが吹き抜ける平の昼がり、私は役所の民課の窓にいた。
テーブルを挟んで、夫――輔が座っている。たったヶで見違えるほど痩せこけ、スーツの肩幅が余っていた。目のには抜けない隈が張り付き、かつての領のいい笑顔は完全に消え失せていた。
窓の職員が、提された緑の用を確認する。
「藤本歩美さん、藤本輔さんですね。類に備はありませんので、本付で受理いたします」
カチャン、と乾いたスタンプの音が響いた。
の婚姻活が、たった枚のと、数秒の事務続きで完全に終わった。
役所のロビーをると、の澄み渡るような青空が広がっていた。輔が、すがるような目で私を呼び止めた。
「……歩美」
「何?」
私はち止まり、振り返った。
「母さん、毎で塞ぎ込んでるよ。俺も……会社で噂が広まって、居所がなくて……。借の返済も、毎の料の半が消えていく。本当に……本当にやり直すことは、できないのか?」
未練がましく、々しく震える声。自分が招いた獄の痛みを、まだ私に肩代わりさせようとしている。
私は、コートのポケットに両を突っ込んだまま、静かに首を横に振った。
「できないわ」
「歩美……」
「輔。あなたとお義母さんが殺そうとしたのは、お母さんの体だけじゃないのよ」
私は、まっすぐにその濁った目を見据えた。