"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第10話
庭には祖父が入れを続けてきた柿のがあり、玄関の柱には私や従兄弟たちの背丈を刻んだ無数の傷がある。
決して豪華な邸宅ではない。
けれど、藤森運輸のトラックがまだ台しかなかった頃、にまみれて働いた祖父が、族のために必に守り抜いてきた唯のだ。
「でも、あのの名義はおじいちゃんでしょ? 叔父さんが勝に売れるわけが――」
「委任状だよ、希」
悠真が横から、く抑えた声でを挟んだ。
スマートフォンの画面を指差し、静に祖父へと問いかける。
「おじい様。叔父様から最、介護施設の続きだと言われて、印鑑証や実印を預けたり、の類に署名させられたりしていませんか?」
話の向こうで、祖父がく息を呑んだ。
『……先、退院するじゃ。「介護認定の更と、いざというの施設入所の続きに必だから」と、実印と権利の保管所を聞きそうとしてきおった。あのは誤魔化したが、あいつの目は本気じゃった』
全の毛穴がくような戦慄を覚えた。
米寿の宴での叔父の言葉が、の奥で々しく蘇る。
『男が昼から遊んでるなら、通院も買いしも全部引き受けろ』『毎週末は必ず親父のへ通って、飯の作り置きと掃除をやれ』
あれは、私たちへの嫌がらせなどという易しいものではなかった。
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資産価値のある産は自分が秘密裏に処分して現化し、会社の赤字補填に回す。
その方で、老ホームの費用を浮かせ、祖父の々の介護と活の負担だけを、無職の悠真と姪である私に丸投げする。
利益はすべて自分の懐へ、面倒とはにすすらせる。
「……そこまで腐ってるの」
震える私の肩を、悠真がしっかりと抱き寄せた。
「おじい様。今夜は鍵をしっかり閉めて、チェーンもかけて休んでください。権利と実印の所は、絶対に誰にも言わないで」
『……分かっとる。すまんな、夜分にこんな話を』
「、朝番でそちらへ伺います。僕たちでのを確認させてください」
『頼む……すまんが、頼む』
通話が切れたも、ツー、ツーという械音が静まり返ったリビングに虚しく響いていた。
翌朝、午。
れのたい空気の、私たちは祖父のむ古い宅へとをらせた。
扉をくぐると、玄関先で祖父がすでに支度をえて待っていた。
昨の米寿のれ着とは打って変わり、着古した紺のカーディガンにスラックス。
その元は微かに覚束ないが、だけは鋭く澄んでいた。
「よく来てくれたな。がってくれ」
居の茶箪笥から、祖父が通の封筒を取りして座卓に置いた。
元の産仲介業者のロゴが入った、分い査定報告。
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表には『藤森達夫様 ご提案』と印刷されていた。
概算売却査定価格――千百万円。
「あいつの会社、相当切羽詰まっとるらしい」
祖父は苦々しく吐き捨てた。
「付きいのある信用庫の支が、わしの古いりいでな。昨、こっそり話で探りを入れてみたんじゃ。達夫は規の倉庫建設資がショートしかけて、から追加融資を断られとる」
やはり、悠真の推測通りだった。
見栄を張っての丈にわない過剰な設備投資をめ、資が尽きかけた叔父は、父親の処を担保に入れるか、売りばして穴埋めしようとしていたのだ。
「祖父様」
悠真が報告から顔をげ、穏やかな調で尋ねた。
「祖父様ご自は、本当はどうされたいのですか? このをれて、施設に入りたいとお考えですか?」
祖父は目を伏せ、畳の縁を節くれった指先でく押さえた。
「……たくない」
絞りすような、けれど確固たる志のこもった声だった。
「ばあさんとで建てたじゃ。庭の柿も、わしが植えた。あいつらにとってはただの古でも、わしにとってはそのものなんじゃよ。体がかんようになるまでは、ここで、自分ので暮らしたい」
「分かりました」
悠真は何の迷いもなくちがると、持参していたメジャーと作業用ノートをポケットから取りした。
「おじい様、のをし見せていただいてもよろしいですか?」
「悠真さん……?」
私が驚いて見げると、悠真は仕事に向きうプロフェッショナルの厳しい顔つきになっていた。