"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第9話
悠真は座卓のの通帳を指先でそっと撫でた。
「おじい様が困っているなら、力になりたい。でもそれは、おじい様本が望んで、僕たちが自分たちの志で決めることだ。無職だからとか、族の犠牲になれとか、そんな理尽な理由で差しすは、僕には分秒もない」
「悠真さん……」
「僕たちのは、僕たちで決める。誰の指図も受けないよ」
その静かな、けれど岩のように揺るぎない言葉に、私の荒れ狂っていたがすっと落ち着いていくのが分かった。
このは、叔父のように虚勢を張ることも、を踏み台にして自分をきく見せることもしない。
自分のでち、自分の言葉に責任を持っている。
初めて、このと結婚して本当によかったと、の底から誇らしくった。
母もまた、涙を浮かべながら何度もさく頷いていた。
「ありがとう、悠真さん……。希を、よろしくお願いしますね」
私たちは付が変わるまでかかって、母の通帳のコピーを取り、領収をすべてスキャンし、叔父からのLINEの文面をPDF化して理した。
万千百円の、欺瞞の記録。
叔父が親族ので誇らしげに掲げていた『親孝』という名のメッキを、跡形もなく剥ぎ取るための決定な弾丸だった。
付が変わり、夜を過ぎた頃。
私たちは母のアパートをにし、自分たちのアパートへと戻ってきた。
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緊張とりで極限まで張り詰めていた体から、どっと疲労が押し寄せてくる。
玄関で靴を脱ぎ、リビングのかりをつけただった。
テーブルのに置いてあった私のスマートフォンが、突然、激しく振し始めた。
ブーッ、ブーッ、ブーッ――。
静まり返った夜の部に、無質なバイブレーションが気に響き渡る。
画面を覗き込んだ私は、わず息を呑んだ。
ディスプレイに表示されていたのは、叔父の名ではなかった。
『祖父(自宅)』
「……おじいちゃん?」
計の針は夜半を回っている。
普段なら、とっくに就寝しているはずのだった。
祖父のには固定話しかない。
こんな夜に、齢の祖父が自ら受話器を取って話をかけてくるなど、尋常な事態ではなかった。
「希、どうしたの?」
奥から戻ってきた悠真が、私の張った表を見てを止めた。
「おじいちゃんから……こんなに」
「すぐにて」
悠真に促され、私は震える指で通話ボタンをスライドさせ、に当てた。
「もしもし、おじいちゃん!? どうしたの、こんなに……体調でも悪くなったの!?」
受話器の向こうから聞こえてきたのは、微かな擦れの音と、押し殺したようない呼吸音だった。
誰かに聞かれるのを極度に警戒しているような、く掠れた声。
『……希か』
「うん、希だよ。丈夫? 救急呼ぶ?」
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『いや、体ではない。……で聞いているか』
その声のただならぬ気配に、背筋がスーッとたくなった。
「悠真さんも隣にいるよ。スピーカーにしていい?」
『……構わん。悠真さんにも、聞いてほしい』
私は通話をスピーカーに切り替え、スマートフォンをテーブルの央に置いた。
悠真が真剣な顔でを乗りす。
受話器の向こうで、祖父がく、苦しげな息を吐きす音が聞こえた。
そして、絞りすように告げられたその言に、私たちは完全に言葉を失った。
『希。……誰にも言えんで、ずっと調べておったんじゃがな』
「……うん」
『達夫のやつ……わしがぬのを待ちきれんらしい』
「え……?」
『あいつ、わしに言の相談もなく……このを、わしが代で築いて暮らしてきたこの古いを、裏で勝に産に売り払おうといとる』
「……え?」
受話器から漏れた言葉のが、すぐには脳に届かなかった。
私の隣でを乗りしていた悠真の体が、ピクリと張る。
「おじいちゃん、待って……を売り払うって、どういうこと?」
『言葉通りのじゃ』
祖父の息遣いは浅く、けれどその奥底に、底れぬりと無が沈殿していた。
『先週、ポストに見慣れん産からの封が入っとってな。達夫宛の査定報告じゃった。あいつ、わしの名義のこのと建物を、勝に売りにそうと媒介契約の相談をめとる』
の芯がスーッとえ切っていく。
昭代に祖父が代で建てた、造階建ての。