"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第2話
私が叫びそうになった瞬、腕にそっと温かいが触れた。
悠真だった。
く握るのではなく、ただ私のりを宥めるように、優しく指先を添えてさく首を横に振る。
その横顔には、卑屈さも、激昂もなかった。
のたいので、悠真の声だけが静かに、澄み渡るように響いた。
「ご配には及びません。自分の費くらいは、自分で何とかしておりますので」
叔父の顔が、わずかに引きつった。
相が取り乱して座でもするか、あるいは逆して掴みかかってくるのを期待していたのだろう。
完璧な礼儀正しさで受け流された叔父は、吐き捨てるように「冗談の通じねえ男だ」と呟き、踵を返して料亭の玄関へと消えていった。
「……ごめんね、悠真さん」
悔しさで震える私の肩を、夫はポンと軽く叩いた。
「謝ることなんて何もないよ。今はおじい様のお祝いだ。こう」
その穏やかな声に背を押され、私たちはい取りで料亭の簾をくぐった。
通された広には、すでにい親族が顔を揃えていた。
正面の座には見事な屏がてられ、緋の座布団が置かれている。
けれど、部を満たしていたのは、やかな祝宴の空気ではなかった。
先ほどの駐でのやり取りが、すでに親族のに筒抜けになっていたのだ。
末席に座る私たちに向けられる、あからさまな好奇と軽蔑の線。
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「本当に無職なんですって」「希ちゃんも苦労するわね」「男の見る目がないんじゃないの」
ひそひそとした囁き声が、の奥をチクチクと刺す。
しれた席に座る私の母・子は、縮こまるように肩を落とし、元の湯呑みをじっと見つめていた。
母のあの怯えたような表を見るたび、胸が締め付けられる。
座のくでビールを注がせている叔父は、折こちらを見ては、隣に座る叔母の理恵と打ちをしてニヤニヤと笑っていた。
針の筵とは、まさにこのことだった。
悠真は私の緊張を察したのか、畳ので私の指先をそっと包み込んでくれた。
その温もりだけにすがりつくようにして、私はくこのが過ぎることだけを祈っていた。
やがて、のの脇の襖が静かにいた。
内の空気が、瞬で張り詰める。
「お父様、元にお気をつけください」
案内係に付き添われ、ゆっくりと姿を現したのは、今歳を迎えた祖父・源造だった。
黒紋付の羽織袴にを包み、太い樫の杖を突いて歩歩む。
藤森運輸をたった台のトラックから叩きげで創業した祖父には、今なお周囲を圧倒する異様な威厳があった。
「遅くなってすまんな」
くしゃがれた祖父の声に、親族全員が斉に平伏した。
叔父もちがり、満面の笑みを作って駆け寄る。
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「親父、米寿おめでとうございます! さあさあ、こちらの座へ」
祖父は叔父の差ししたを借りず、自らので緋の座布団へと腰をろした。
宴が始まり、親族が順番に祖父のへみて祝いの言葉を述べるのが藤森の習わしだった。
真っ先にみた叔父は、祖父ので声を張りげた。
「親父のおかげで、今の藤森運輸も過最益を更する見込みです! 親父の面倒も、これからは男である俺が全部完璧に配しますから、何も配いりません!」
親族たちから「さすが社」「頼もしい」と歓声ががる。
祖父はその言葉を無表に聞き流し、ただ度だけく頷いた。
そして、の親族たちの形式な挨拶がひと通り終わり、いよいよ私たちの番が回ってきた。
私は鉛をみ込んだような胃を抱え、悠真を伴って広の央へとみた。
祖父の座る座卓の正面で、並んで正座をする。
その瞬、内の私語がピタリと止まった。
叔父が酒のグラスを揺らしながら、悪なら笑いを浮かべてこちらを見つめている。
無職の夫を連れてきた孫娘が、威厳ある元創業者からどんな叱責を受けるのか、見世物として楽しんでいるのだ。
「おじいちゃん、歳のお誕、おめでとうございます」
声が震えないよう、必に喉の奥をいた。
「先入籍した、夫の悠真さんを紹介したくて連れてきました」
悠真が畳に両を突き、滑らかな所作でくをげた。