"「ヒモ男」と笑われた夫と私に、88歳の祖父が深く頭を下げた" 第1話
砂利を踏みしめる乱暴なスキール音が、の澄んだ空気を切り裂くように料亭の駐に響いた。
まったのは、黒りする巨な級。
運転席のドアが乱暴にき、仕てのいいスーツにを包んだ柄な男性がりてきた。
藤森運輸の社であり、私の叔父である達夫だった。
「……来た」
私の隣で、夫の悠真がさく息を吸い込んだ。
私たちが入籍届を役所にしたのは、わずか週。
親族全員が集まる公式の席に、夫婦として顔をすのは今が初めてだった。
私の祖父、藤森源造の米寿――歳を祝う宴。
本来なら、おめでたい空気に包まれるはずの。
けれど私の胃の底は、朝からたい鉛でもみ込んだようにかった。
叔父は昔から、の乗っているの種、につけている計のランク、勤め先の資本だけでを品定めするだった。
父がくにくなってからというもの、私と母は事あるごとに、この叔父から「面倒を見てやっている」という無言の圧力を受け続けてきた。
だからこそ、私は悠真と付きっていた、度も叔父に会わせなかった。
今の悠真は、派さのない実直な紺のジャケットに、清潔なのシャツ。
も、私がずっと通勤で使ってきた季の入った国産のコンパクトカーだ。
の勤め先だったが事業縮で閉鎖になり、今は設備保全の国資格を取り直しながら再就職活の真っ最。
広告
贅沢はできないけれど、で計を支えい、慎ましく誠実に暮らしていくと決めた切なパートナー。
でも、叔父の目にどう映るかは、痛いほど分かっていた。
「おいおい、ずいぶんとっぽいで乗り付けたもんだな」
太い幹のような腕組みをして、叔父がこちらへ股で歩いてくる。
漂ういポマードの匂いに、反射に喉が詰まりそうになる。
「おじさん、おはようございます」
私がをげても、叔父は私の顔など見向きもしない。
ねめ回すような線が、悠真の元の靴から、首の実用な国産計へといがっていく。
「君が、希が勝に籍を入れたっていう男か」
祝いの席にふさわしくない、あからさまな嘲笑が混じった声。
「初めまして。悠真と申します。本はお招きいただき、ありがとうございます」
悠真は取り乱すことなく、指先まで揃えて丁寧にお辞儀をした。
叔父は軽くを鳴らすと、ジャケットの内ポケットから文字の入った分い名刺入れを取りした。
親指で弾くようにして枚抜きし、悠真の胸元に突きつける。
「藤森運輸の社をやってる藤森達夫だ。……で? 君の名刺は?」
「申し訳ありません。本はお祝いの席ですので、名刺は持ちわせておりません」
「持ちわせてない?」
叔父の眉がつりがった。
「社会としての常識がないのか。
広告
それとも、親族に名刺もせないような仕事をしてるのか?」
「おじさん、やめてください!」
たまらず私が割って入ろうとしたが、叔父はのひらで制した。
「内になるんだから素性をるのは当然だろうが。で、何をしてるんだ?」
悠真はじず、真っ直ぐに叔父の線を受け止めた。
「以はプラント設備の保全を担当しておりました。現はたな技術資格を取得するため、再就職の準備期としていております」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、叔父のから品な吹きし声が漏れた。
「準備期? ……はっ、するに無職かよ!」
料亭のをくぐろうとしていたくの親戚たちが、何事かとを止めるのが分かった。
叔父は周囲にわざと聞こえるような声で、悠真を指差した。
「おいおい希、おとんでもないのを掴まされたな! 仕事もねえ男を連れてきて、米寿の祝いに恥をかかせる気か?」
「仕事は今、真剣に探しています。悠真さんは毎のことも全部やってくれて――」
「はいはい、言い訳は結構」
叔父はをほじるような仕をして、悠真の顔を面そうに覗き込んだ。
「昼からでゴロゴロして、嫁の料でう飯はうまいか?」
「……」
「嫁に養ってもらうヒモ男か(笑)。男としてのプライドはねえのかよ」
の芯がカッとくなった。
界が真っ赤に染まる。
「いい加減にしてください!」