"義母を沈めた十六時四十四分" 第10話
と見していたような暮らしの底で、息子と互いを呪いいながら暮らしているそうだ。ある曜の夕暮れ。
私はキッチンにち、コトコトと野菜スープを煮込んでいた。
鶏肉とキャベツ、参、玉ねぎ。じっくりとをかけて引きした野菜の甘みが、部いっぱいに広がっていく。
抜きでも、栄養でもない。私と陽翔が、をきるための、温かくて確かな命の事。「おかあしゃん、いいにおい! きょうのごはん、なあに?」
リビングで絵本を読んでいた陽翔が、トコトコとキッチンへってきた。
「今はね、お野菜たっぷりのスープと、陽翔の好きなハンバーグよ」
「やったあ! ぼく、おてつだいする!」さなスプーンを誇らしげに掲げる息子の姿に、私はからの笑顔を浮かべた。ふと、キッチンのカウンターに置かれたスマートフォンに目を落とす。
画面には、保育園の連絡帳アプリからの通と、澄さんからの「、おすすめのパンさんのラスク持っていくね」というメッセージが表示されているだけだった。あの執拗で、毒に満ちた着信も、侮辱の言葉も、もう度とこの画面に現れることはない。 あの、震える指で送った通のメッセージ。
あれは、単なる姑への反抗ではなかった。
あのとき、震える指先で画面をタップして放った言葉は、単なるな苛ちの吐などではなかった。
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自分のを、そして何よりも守るべきが子の未来を、の理尽な悪と支配から守り抜くための、最初で最の宣戦布告だったのだ。
かつては誰かの顔ばかりを窺い、どれほどを尽くして料理を作っても「抜きだ」「栄養がない」となじられ、さくを縮めて息を潜めていた。
理尽に耐えることこそが妻の務めなのだと、自分に言い聞かせてを殺していた々。
だが、あの苦しい呪縛はもう完全に断ち切られた。この部にあるのは、誰にも脅かされることのない、私と陽翔だけの純粋で穏やかな空だった。
キッチンの柔らかなかりが、ぢんまりとした製のダイニングテーブルを温かく包み込んでいる。テーブルの央には、コトコトとをかけて煮込んだ鮮やかな野菜スープと、陽翔の好物であるふっくらと焼きがったハンバーグが並んでいた。
「いただきます!」
さな両を胸のでぴたりとわせ、陽翔の元気な声が部いっぱいに響き渡る。 子ども用のさなスプーンをぎゅっと握りしめ、ふうふうと息を吹きかけながらスープをに運んだ陽翔が、目をまん丸にして満面の笑顔を咲かせた。
「おかあしゃん、すっごくおいしい! おやさい、あまーい!」
「ありがとう、陽翔。たくさんべてね」
私は息子の柔らかな髪にそっとを伸ばし、おしさを込めてそのを優しく撫でた。
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自分の分のスプーンをに取り、澄んだスープを静かにに含む。鶏肉の優しい汁と、参や玉ねぎ、キャベツが持つ素朴で力い甘みが、舌のにふわりと広がっていく。温かい滋が、え切っていた過を溶かすように、臓腑へとじんわりと染み渡っていった。
これは誰かに見せつけるためのものでも、理尽な評価に怯えながら差しすものでもない。をで健やかにきるための、温かくて確かな命の事だった。
ふと線をげると、窓のには静かに夜の帳がりていた。 たいをはらんだ澄み切った暗紺の空に、番が凛として輝いている。 かつて流した涙も、悔しさに震えた夜も、すべては今この穏やかな卓へと辿り着くためののりだったのだとえる。
自分のでを踏みしめ、切なが子を自分の力で抱きしめてきていく。 私たちがに入れた平穏な々の向こうに、もう、恐れるものは何つなかった。