"亡き娘の純金バングルを、義母は義妹の再婚費用にしようとした" 第11話
千恵子が唾をばしながら、信じられない言葉を吐き捨てた。
「由梨ちゃんがね、試着の写真を見た親戚から『素敵なパールね』って褒められて、んでたのよ! それをあんたたちが棒扱いしたせいで、由梨ちゃんは『こんなケチのついた物、怖くてにつけられない!』って部に閉じこもって泣き崩れてるわ!」
ろにつ健太は、止めようともせず、ただ気まずそうに線を逸らしている。
私は落ちたネックレスを静かに拾いげた。傷ひとつない、美しい真珠。けれど、この清らかな珠に、どれほどのおぞましい悪と見栄が塗りたくられたことか。
「……ネックレスは、確かに返していただきました」私がたく告げると、千恵子は勝ち誇ったように顎を突きした。
「そうよ! 返したんだから、次はあんたたちの番よ!」
「……私たちの番?」
千恵子は目を吊りげ、ドアの隙から顔をねじ込むようにして、狂気じみた笑みを浮かべた。
「の夜、田との親戚同の顔わせの事会があるのよ! 級料亭の個を予約してあるの! そこに奈緒さん、あんたも来なさい!」
玄関の奥に隠れていた奈緒が、息を呑む音が聞こえた。
千恵子のから放たれたのは、の尊厳を根底から踏みにじる、最悪の求だった。
「由梨ちゃんので、田の皆さんので、をついて座して謝りなさい! 『私が勘違いして騒ぎて、い由梨さんの名誉を傷つけました』ってね! あんたが座してをげて、由梨ちゃんのドレス代の全額を迷惑料として差しすなら……今回のことは、族の恥として問にしてあげるわ!」
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「……座?」
チェーンの隙から吹き込んできた夜が、私の頬を撫でた。そのたさよりも、目のにいる義母・千恵子のから放たれた言葉のほうが、遥かに私の皮膚を凍りつかせていた。
千恵子の目は、暗がりので異様な興奮にギラギラとっていた。角を吊りげ、歪んだ笑みを張り付かせている。
「そうよ。の夜、田との親戚同のでをついて謝りなさい。由梨ちゃんの顔にを塗ったんだから、それくらい当然でしょうが」
「母さんの言う通りだよ、奈緒」
ろにつ夫の健太が、宥めるような、けれど芯の腐った声でを挟んできた。
「おさえをげれば、丸く収まるんだからさ。由梨の旦になる田さんは、元でも顔が広いんだ。結婚にこんなケチがついたら、あいつのがないだろ? 族のために、おがしをかぶってくれればいいだけの話なんだよ」
族のために、をかぶれ。この男は、今この瞬も、自分の妹の見栄と世体のためだけに、妻の尊厳を豚の餌のように投げ捨てようとしていた。
私の背筋を、耐えがたい悪寒が駆け抜けた。りで指先が痙攣し、チェーンをしてこの女の顔めがけて扉を叩きつけてやりたい衝に駆られた。
そのだった。
「……ふざけないで」
背から、く、押し殺した声が響いた。
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振り返ると、玄関の廊の暗がりのに、奈緒がっていた。さっきまでソファのでさく丸まり、呼吸すら怯えていた次女が。両拳をくなるほどく握りしめ、ゆっくりと玄関のたたきへりてきた。
「奈緒……」
奈緒は私の肩をそっと押し留め、自らドアの隙へとみた。その顔には、先ほどまでの怯えも涙もなかった。磁のように青ざめた肌の奥で、静かな、けれど決して消えることのない炎が揺らめいていた。
「奈緒さん! やっとてきたのね!」千恵子が勝ち誇ったようにを乗りす。「聞いたでしょ! の事会、あんたがちゃんとをげて――」
「謝るのは、私じゃありません」
静かな声だった。けれど、夜の宅の空気を鋭く切り裂くような、絶対な響きがあった。
千恵子の言葉が、喉の奥で詰まった。健太が「え……?」と抜けな声を漏らす。
「な、何言ってるのよ! あんたが買い取りにまで乗り込んで騒ぎしたから、由梨ちゃんが――」
「お姉ちゃんの形見を棒したのは、あなたたちです」
奈緒の瞳が、千恵子を正面から射抜いた。結婚して、度として義母の線をまともに見返すことすらできなかった娘が、瞬きひとつせずに言い放った。