"亡き娘の純金バングルを、義母は義妹の再婚費用にしようとした" 第8話
と引き取っていったはずだった。
「奈緒。あの真珠は、どこにあるの?」
奈緒の瞳から、粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。唇を噛みしめ、首を横に振る。言えない。言ったら取り返しのつかないことになる――そう全で叫んでいるようだった。
その、座卓のに伏せて置かれていた奈緒のスマートフォンが、激しく振した。
ブブブッ、ブブブッ、ブブブッ。
無質な械音が、静まり返ったに気に響き渡る。画面がくり、表示された名は『健太』だった。
奈緒は幽霊でも見るかのように、スマートフォンからを引いた。
「なくていいわ」私がを伸ばそうとすると、奈緒が掠れた声でそれを止めた。
「……る。ないと……あの、ここに乗り込んでくるかもしれないから」
奈緒は震える指で通話ボタンをスワイプし、スピーカーフォンにした。受話器をに当てる勇気すらないのだと分かって、私の胸は張り裂けそうになった。
『もしもし! おい、奈緒! どこにいるんだよ!』
スピーカーから漏れた健太の声は、りと苛ちで尖りきっていた。
『お義母さんの実だろ!? おさ、ちょっとやりすぎだろ! お袋がどれだけ泣いてるか分かってんのか!?』
奈緒は喉を詰まらせ、何も言い返せない。
『買い取りにまで乗り込んで警察汰にするなんて、常識疑うぞ! から俺の携帯にまで確認の話が入って、恥かかされたのはこっちなんだよ!』
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「健太さん」私が割って入ると、話の向こうが瞬息を呑んだ。
『……お、お義母さんですか』わずかにトーンが落ちたものの、健太の傲な態度は変わらなかった。
『お義母さんも、し落ち着いてくださいよ。族の恥をに晒してどうするんですか。由梨はね、の結婚で旦に浮気されて、本当にひどい目に遭ったんですよ。今回やっと、まともな相と巡りえてやり直せるんです』
「それが、美咲の遺品を勝に売る理由になるんですか?」
『だから! 売るって言っても、全部を処分するわけじゃないですよ!』健太が苛たしげに舌打ちをした。
『美咲姐さんはもうくなってるんです! んだの物をいくら取っておいたって、円にもならないし、誰も幸せにならないじゃないですか! きてるが苦しんでるのに、んだのいにしがみついて何になるんですか!?』
「健太」奈緒が、震える声で夫の名を呼んだ。
「あんた……本当にそうってるの? お姉ちゃんの物、何ともってないの?」
『何ともってないわけないだろ! 謝してるよ! 美咲姐さんの遺品のおかげで由梨が助かるなら、姐さんだって国でぶはずだって言ってるんだ! 族のために役にてて良かったねって、供養になるんだよ!』
勝な理屈だった。自分の妹の見栄のために、くなったの尊厳を「供養」
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という美名ですり潰す。この男にとって、妻の族は、自分たちの都のいいにだけ利用する具に過ぎなかったのだ。
『だいたいな、奈緒。おが頑固だから話がこじれるんだよ。結婚しても経つのに、いつまでも実のことばっかり引きずって。由梨がどれだけ肩の狭いいをしてるか、しは考えたらどうなんだ?』
「……由梨ちゃんが、何?」
『由梨の相の田さんはな、元でも名な建設会社の跡取りなんだよ。向こうの母親も親戚も、結婚式にはそれなりのなりで来るに決まってんだろ! あいつに恥をかかせないのが、兄貴である俺の務めなんだよ!』
「だからって……!」
『もういい。とにかくの朝、バングルをに戻せ。それからお袋にちゃんと謝れ。族なんだから、しは痛みを分かちえよ』
方に話が切れた。ツコツコと鳴る通話終の子音が、静まり返った部に虚しく響いた。
奈緒は両で顔を覆い、肩を激しくさせて泣き崩れた。
「……私のせいなの? お母さん……私が、私がして……『どうぞ使ってください』って言えば……誰もらなくて済んだの……?」
「奈緒!」
私は奈緒の肩をく掴み、無理やり顔をげさせた。
「自分を責めるのは輪際やめなさい! あの男の言っていることは、ただの盗の理屈よ! 族という言葉を使って、あなたからすべてを奪おうとしているだけ!」
奈緒の濡れた瞳が、宙を彷徨う。