"「魚臭いから焼肉屋へ」30人を連れ去った義妹が広めた嘘" 第5話
この男に今何を言っても無駄だ。証拠が揃うに騒げば、「妹を悪者にするな」と庇いてし、すべてを曖昧に揉み消そうとするに決まっている。
「……何でもないわ。もう寝るね」
翌朝、曜。午。
の仕込みのために階へりた私を待っていたのは、鳴り止まない固定話のベルの音だった。
受話器を取る。
「はい、魚です」
『……あ、奈緒ちゃん? だけど』
声の主は、き父の代から以通い続けてくれている、所のさんだった。いつもなら「奈緒ちゃん、今もいい魚入ってるかい?」と陽気に声をかけてくれるはずのさんの調が、酷く張っていた。
「おはようございます、さん。いつもありがとうございます」
『あ、ああ……うん。実はな、ちょっと話したのは……来週の曜に予約してた、お袋の回忌の法事の件なんだが』
嫌な予が、背筋を駆けがった。
『……あれ、度キャンセルさせてもらえないかい』
臓が、たく収縮した。
「さん……何か、ご都でも悪くなられましたか? おの変更でしたら、柔に対応させていただきますが」
受話器の向こうで、さんがひどく言いにくそうにごもる気配配がした。そして、周囲を気にするように声になった。
「いやな……親戚の連から、朝イチで連絡があったんだよ。『魚で酷い毒がて、昨の夜、客が何も救急搬送されたらしいぞ』ってな。
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商のLINEグループで、昨の夜からそんな話が回ってるって言うんだ」
喉から、声がなかった。
理恵が牛吉での同窓に放った嘘。同窓が、族に話した。族が、所のに話した。が、商のグループチャットにき込んだ。
わずか半のに、あの毒を含んだ嘘は、商という狭いの毛細血管を伝って、完璧な「事実」として定着し始めていた。
『奈緒ちゃん、俺はおのこと信じたいよ? 親父さんの代から世話になってるしな。でも法事だろ? 親戚の、もし万がのことがあったら、俺の顔がたないんだよ……本当にすまないな』
「……さん、お待ちください! それは全くのデマです! 保健所の指導も入っていませんし、昨は通常通り――」
『じゃあ、なんで昨の夜、広の気がついてるのに客がも入ってなかったんだ?』
さんの鋭い問いに、言葉が詰まった。
『商の連、みんな見てるんだよ。曜のゴールデンタイムに、魚の広に料理だけ並んでて、誰客がいなかったって。あれは保健所がち入って客を追い返したからだろって……みんなそう言ってるんだ』
昨夜、理恵にドタキャンされ、虚しく並んでいた分の空席。あの無残な景そのものが、理恵のついた「毒」という嘘を証するかぬ物証として、隣民の目に焼き付いてしまっていたのだ。
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『……そういうわけだから。本当にすまないな』
方に話が切れた。
ツー、ツー、ツー。
受話器を握りしめたまま、私はそのにち尽くした。
ピロン、と机ののスマートフォンが甲い通音を鳴らした。画面を見る。
『来の結婚記のディナーですが、体調良のためキャンセルさせていただきます』『来週曜のPTA役員会、別のに変更になりましたのでキャンセルでお願いします』
次々と画面を埋め尽くしていく、予約キャンセルの通。
父の遺が飾られた帳で、私は震える指を固く握りしめた。内の空気は、真のようにえ切っていた。
理恵が軽い気持ちで放った「魚臭い」という嘲笑と、遣い稼ぎのために捏造した「毒」という猛毒。それが今、かけて築きげたこのを、台から音をてて崩壊させようとしていた。
もう、族会議で済む段階は、完全に終わっていた。
受話器を置き、私は帳のパイプ子にく腰を沈めた。
の指先が、まるで氷に浸けられたようにえ切っている。それなのに、の芯だけは異様なほど冴え渡っていた。
帳の壁には、にこのをいた若きの父の写真が飾られている。の法被を着て、仕入れたばかりの派な真鯛を両で抱え、誇らしげに笑う父。その隣で、母が嬉しそうに帳簿をつけている。
『奈緒、魚は嘘をつかねえぞ』