"「本当の父親です」と乾杯した夫、148万円の請求書には知らん顔" 第11話
『先、そんな……こちらこそ、お祝いに伺えて栄でした。ですが、昼の件は本当に申し訳ありません。先の顔にを塗るような形になってしまい……』
「おが謝ることじゃない。俺の内の始末だ。だが、仕事とは別だ。あいつの会社をで締めす必はないが、嘘をついて信用を偽装した企業にペナルティを与えるのは、発注側の当然の義務だ。契約の筋を通せ。職のがあるなら、曖昧な妥協はするな」
『……肝に銘じます。先のお名、これ以誰にも利用させません』
そして本目。藤沢隆さんへの話だった。
受話器の向こうの藤沢さんは、話で直になっているのが伝わってくるような声だった。
『師匠……』
「藤沢。今回の調達プロジェクト、のこれからのをする事な更だな」
『はい。各社、き残りをかけて設備投資に踏み切っています』
「なら、なおさらだ。俺の名を理由に、発注先を決めるような真似は絶対に許さん。健太郎君の会社が提示した類から、俺に関する記述をすべて抹消しろ。そので、コンプライアンス違反としての処分は、おたちコンソーシアムの規約通りに厳格にえ。……俺への気遣いなど、切らん」
『……師匠。奥様、真由美さんは……丈夫ですか』
藤沢さんのその問いに、父は瞬だけ目を伏せた。そして、私の顔をじっと見つめながら、静かに答えた。
広告
「娘は、俺が守る。おは、自分のの仲と、この域のモノづくりの筋を守れ」
話を切ると、父は机ののメモ用に、万で迷いのない文字をらせた。
【野寺修としての見解】、貴社が提した提案における技術顧問就任の事実は切しない。、野寺修の氏名、経歴、技能章等の無断使用を即止されたい。、本件に関し、親族関係を理由とした切の特別な配慮を固く辞退する。
インクの匂いが、プレハブのたい空気のに漂う。父は面を丁寧に折り、私に差しした。
「真由美」
「……うん」
「俺は、健太郎君の仕事を潰すためにこれをいたんじゃない」
父の目は、どこまでも澄み切っていた。
「、図面の本の線にも、客への言にも、嘘をつかないことだけを誇りにしてきた。自分の信用を、誰のにも使わせない。それだけの話だ」
父の背を見つめながら、私は胸の奥がくなるのを必に堪えていた。
夫は、父を『脈』と呼んだ。だが、本物の信用とは、誰かに頼まれて都よく貸しすような具ではない。の歳をかけて、ミリの狂いもなく積みねた魂そのものだったのだ。
翌からのは、まるで音のない砂りののにいるようだった。
夫の会社、産業器商社の名古支社は、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていたらしい。
広告
藤沢精をはじめとする社のコンソーシアムから、連名で正式な【コンプライアンス違反に関する事実確認および抗議面】が内容証で届いたのだ。そこには、父が署名した『見解』の写しも添付されていた。
社内調査委員会が即座にちがった。夫は担当役員に呼びされ、朝から夕方まで缶詰めで尋問を受けたという。過に夫が関わったすべての官公庁案件、助成プロジェクト、民コンソーシアムの提案類が押収され、法務部による全件洗いしが始まった。
夫のスマートフォンには、同業社や社内の同僚からの探りの連絡が殺到し、やがてそれすらも会社から没収された。
そして、古希祝いの夜から数えて、ちょうど目の夜。
午を回った頃。玄関のドアが、信じられないほど々しい音をてていた。
ガチャリ。
靴を脱ぐ音すらしない。リビングのドアが力なくき、の男が滑り込んできた。
夫だった。
たったで、はここまで変わり果てるものなのか。にピカピカに磨きげていた級革靴はにまみれ、ストライプのスーツはシワだらけで、ネクタイは斜めに緩んでいた。顔は通り越して青く、目のには黒々とした隈が張り付いている。
夫は私を見るなり、膝から崩れ落ちるようにしてにへたり込んだ。
「……真由美」
かすれた、喉の奥から絞りすような声だった。